研究課題/領域番号 |
19K06443
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中西 祐輔 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (20579411)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / 好中球 / 細胞外トラップ |
研究実績の概要 |
好中球は血液中を多量に流れる免疫細胞であり、病原体感染に対し最前線に位置する重要な細胞である。BALB/cマウス由来のがん細胞株であるCT-26と4T1をそれぞれマウスに接種し、誘導した腫瘍内の微小環境に浸潤している免疫細胞を解析したところ4T1細胞株で誘導した腫瘍組織内には多量の好中球が浸潤していることおよびその好中球は細胞外トラップ(NETs)を放出していることが明らかとなった。これらの現象はCT-26で誘導した腫瘍内に局在する好中球では見られなかったことから、4T1細胞株から産生される因子に起因すると推測された。 本研究では、好中球が産生するNETsが腫瘍に対して果たす役割およびがん細胞から産生されるNETsの誘導因子の同定を目指している。本年度は、がん細胞からの誘導因子の同定について解析を試みた。がん細胞の培養上清および腫瘍組織片を培養した培養上清(TES)と骨髄由来好中球を共培養する評価系を用いて検討したところ、4T1細胞株の培養上清およびTESで、NETsの特徴であるシトルリン化ヒストン3の発現および好中球エラスターゼの発現が誘導された。更に、詳細に因子を同定するため培養上清およびTESを限外濾過により3KDa以上および以下の画分に分画した。その結果、3KDa以上の画分にはシトルリン化を誘導する因子が、3KDa以下の画分に好中球エラスターゼを誘導する因子が存在している可能性が示唆された。これらの結果に基づき、液体クロマトグラフィー質量分析からそれぞれの誘導因子の同定を今後、進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
好中球が産生するNETsが腫瘍に果たす役割について検討するため、NETsの形成に必須の酵素PAD4の遺伝子を欠損させたマウス(Padi4欠損マウス)を用いて検討する予定であった。しかし、Padi4欠損マウスは遺伝的背景がC57BL/6マウス由来であったため、BALB/cマウス由来のがん細胞株を使用して、NETsの影響を解析するためには当該マウスの遺伝的背景をBALB/cに変える必要がある。通常、このようなバッククロスは10回程度の交配が必要となるため、当初計画よりやや遅れていると判断した。また、本年度は新型コロナの影響により、研究室の入室が制限され、マウスの必要最低限の維持管理のみしか行えない時期もあったことから、当初予定のバッククロス計画より若干遅れる事態にも繋がった。 また、好中球の存在そのものが腫瘍に与える影響を検討するため、好中球マーカーである抗Ly6G抗体を用いて、好中球の枯渇を誘導する実験についても検討を行った。しかし、参考にした先行研究と同様の投与濃度を用いても、好中球数が半分程度しか減少しないこと、更にはかなりの個体差が観察されたことから、確定的な結論を得ることが難しく、更なる投与方法の検討が必要であると考えられた。 一方、がん細胞由来のNETs誘導因子の同定においては、単一の因子ではなく、ヒストンのシトルリン化とエラスターゼの誘導因子が異なる可能性が示唆されていることから、より詳細な解析が必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
好中球が産生するNETsが腫瘍に与える影響について検討するため、Padi4欠損マウスに4T1細胞株を摂取し、腫瘍サイズおよび重量を計測する。また、その際の好中球の浸潤頻度および形態をフローサイトメーターで解析する。また、当該実験で有意な差が見られた場合、薬理学的介入によるNETsの制御が腫瘍形成に与える影響について検討するため、PAD4の選択的阻害剤であるGSK484を4T1担癌マウスに投与して遺伝子欠損マウスと同様の結果が得られるかについて検討を行う。 また、NETsの欠損だけでは腫瘍形成に影響を与えない可能性も考えられる。そのような場合、4T1担癌Padi4欠損マウスに更に免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1/PD-L1抗体あるいは抗CTLA-4抗体といった免疫チェックポイント阻害剤との併用についても検討する。4T1 細胞株は免疫チェックポイント阻害剤不応答性の細胞株であることが知られており、これらの検討はチェックポイント阻害剤が有効でないがんに対しても新たな知見を得られる。 また、がん細胞から産生されていることが示唆されている液性因子については質量分析からその成分を同定し、更には同定された因子に対する中和抗体およびアンタゴニスト等を用いてその因子を阻害することによって腫瘍形成そのものやチェックポイント阻害剤の応答性に影響を与えることが可能かどうかについても併せて検討を進めていく予定である。以上の検討から、好中球の応答を制御することによるがん免疫治療法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
腫瘍中に浸潤している好中球が放出するNETsが腫瘍の形成に及ぼす影響を解析するため、NETsを産生するための必須酵素PAD4の遺伝子を欠損させたマウスを用いて評価する予定であるが、遺伝的背景をBALB/cにバッククロスする作業に、当初計画より時間を有している。それに伴い、当該実験に使用する予定であった抗体や試薬といった消耗品がまだ購入できていない。 また、がん細胞由来のNETs誘導因子を同定するため、3kDa以上か以下どちらかを質量分析する予定であったが、意外にも両方の画分を分析する必要がある可能性がある結果が得られていることから、その費用を次年度に繰り越している。 更には、NETsの効果と免疫チェックポイント阻害剤の併用効果を検討する実験を追加したことから、その実験を遂行するために必要な抗体を購入するため、次年度使用額が生じた。
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