ストレスによる免疫系の異常,さらには脳内における炎症がアルツハイマー病やうつ病などの神経・精神疾患の増悪因子になるというは報告があるが,そのメカニズムの詳細は明らかではない。本年度、我々は,免疫系の活性化によって誘導される物質をスクリーニングし,ヒト神経細胞に障害性を示すDegradation-risk neuro-immune factor 10 (D-knif 10)を同定した。また,自然免疫を惹起するLPSを添加すると神経障害が誘発されることを見出し,この条件下で,同じD-knif familyの属する因子を加えたところ,D-knif 10に加えてD-knif 4,5,6でもLPSによる神経細胞傷害性を増強することがわかった。このことは,D-knif 4,5,6,10が神経障害の増悪因子となっている可能性を示唆している。 次にマウスを用いた動物実験に進むため、D-knif familyのどの因子がアルツハイマーモデルマウスで発現が亢進しているかを検討することにした。そこで、野生型とアルツハイマーモデルマウスを加齢させたのち、D-knif family遺伝子の発現に差が生じるかを検討した。その結果、mD-knif 8の発現が,野生型に較べアルツハイマーモデルマウスの脳で増加していることを見出した。さらに興味深いことに,ヒトアルツハイマーの剖検脳の解析から,アルツハイマー患者の加齢に伴って、このmD-knif 8のヒトホモログの量が若干上昇することが報告されていた。これらの結果は,認知症などを引き起こす神経変性にD-knif familyが増悪因子として影響を及ぼしている可能性を示唆している。さらに、このようなD-knif familyの活性は今までに報告がなく,新たな神経変性メカニズムの解明につながると考えられる。
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