研究課題/領域番号 |
19K06449
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
水野 信哉 岡山理科大学, 理学部, 教授 (10219644)
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研究分担者 |
大崎 恵理子 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50447801)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | HGF / c-Met / 虚血耐性 / 冬眠 / エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
冬眠の際に動物は摂食を控えるが、生命を維持する上で心肺機能は最低限に維持されている。このような低酸素状態でのエネルギー代謝、特に嫌気性条件下で起こりやすいとされている解糖系からの乳酸生成おける実態そのものが冬眠動物ではよくわかっていない現状である。この理由として、少量の血液から乳酸をリアルタイムで測定する技術が確立されてこなかったことがあげられる。そこで今回、マウスおよびハムスターを用いて、人体用に開発された乳酸簡易測定器(ラクテートプロ2;LP2)を用いて、動物への利用の可能性を模索した。 (1)水溶液について既知濃度の乳酸を加え、その理論値とLP2による実測値がほぼ完全に一致することを確認した。またマウス血漿に乳酸を添加し、様々な乳酸濃度を持つサンプルを調整し、LP2および生化学キットを用いて測定したところ、両者の間で高い相関性を示すことを確認した。(2)ヘパリン処理した全血液と遠心分離により得られた血漿で比較したところ、後者では4-8倍の異常高値を示すことが判明したため、血漿サンプルはLP2測定には不適当と判断された。(3)乳酸溶液を腹腔内投与したマウスでは投与後数分以内に有意に高い血中乳酸値を示すが、20分以内に正常化することが確認された。(4)マウスを用いた強制水泳試験では重りをつけなかった場合、40分以内の観察期間中高乳酸血症は惹起できなかったが、体重の5%に相当する重りを付加した場合、水泳5分目で血中乳酸値は2倍に上昇し、水泳中止後20分で概ね元の水準にまで回復することがわかった。(5)そのほか、肝炎のモデルでは上昇、24時間の絶食では血中乳酸値が減少することが判明した。(6)冬眠動物として使用予定のハムスターでもマウスと同様の傾向があることを確認しつつある。(7)ハムスター心筋組織を用いて、HGFやc-Metチロシンキナーゼの最適検出条件を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年間延長した別の科研プロジェクト(基盤c:15K08402)と重なったために、前半は若干の遅れが生じた。夏以降は学部学生(研究協力者)や研究分担者の協力を得て、遅れの半分以上を挽回することができている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
申請書にそった方向で(1)冬眠ハムスターにおける冬眠準備期(前半、中盤、後半)、冬眠導入期(前半、後半)、冬眠安定期(前半、後半)、冬眠覚醒期における血中HGF濃度の測定、各臓器でのHGF産生量の測定、を中心に解析する。必要に応じて、HGFシグナル伝達の指標であるc-Metチロシンリン酸化の程度を免疫組織学的手法またはウエスタンブロットにより解析する。ついで、冬眠期にあるハムスターにHGF中和抗体またはc-Metチロシンキナーゼ阻害剤を投与し、HGFシグナル伝達の遮断によりアポトーシスが増加することを、caspase-3やPARPの断片化、TUNEL法を用いて明らかにする。(2)冬眠各ステージにあるハムスターにグルコースを与えてグルコース代謝(乳酸代謝を含む)、冬眠中途覚醒に及ぼす影響を解析するとともに、HGFをはじめとするサイトカイン産生系への影響やオートファジーに及ぼす効果を解析する。(3)培養細胞または摘出した器官(臓器)を用い、低温培養(4℃または8℃)した心筋細胞や心組織に及ぼすアポトーシスの誘導とHGF添加による抗アポトーシス効果の可能性を解析する(最適条件を決定する)。以上、生体を用いた実験系を中心としてHGFの生体機能解析を明らかにするとともに、培養細胞を用いて分子メカニズムの解明を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度を1年間延長した別の研究課題(15K08402)を優先的に実施したため、研究遂行に若干の遅れが生じたことによる。
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備考 |
英文和文の原著論文、総説、著書はResearchmap、英文のみはResearchGateを中心に研究成果の情報公開を行なっている。
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