本研究課題は平成29-30年度科研費若手(B)研究課題のスクリーニングによって独自に同定した牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV、旧:牛白血病ウイルス)の複製阻害能を有する、構造の異なる5種のシード化合物について、作用点と作用機序を明らかにすることによってBLV感染に寄与する新規因子を同定することを目的として行った。まず5腫の化合物の類縁構造をもつ化合物(計275化合物)についてスクリーニングを行い、3種類のBLV複製阻害活性をもつ化合物構造を決定し、高活性かつ細胞に低毒性のリード化合物(化合物A、B、C)を得ることに成功した。Time of addition assayの結果から、化合物Bは感染4時間以内の早期において感染を抑制していることが明らかになった。一方で化合物A、Cは、それ以降のステップに作用していることが示唆された。化合物Cは蛍光シンシチウム形成阻害実験においてシンシチウム構造形成よりも、ウイルス転写因子Taxによる緑色蛍光タンパク質発現を強く抑制したことから、化合物Cは侵入後から遺伝子転写までのステップに作用していることが示唆された。しかしながら化合物Cについてはロシアからの輸入ができず、合成も困難であることからこれ以上の解析は行わないこととした。化合物Aについても類縁体の構造相関が得られず、活性も安定しないことから以降は化合物Bについての解析を進めることとした。化合物Bはウイルス複製の遺伝子逆転写よりも前のステップで作用しており、本年度の膜融合阻害試験の結果から、ウイルスの細胞への膜融合のステップを阻害していることが明らかとなった。標的分子検出系の構築に時間を要したため、未だ標的因子の同定には至っていないが、現在は化合物の標識化と、それを用いたpull-down実験系の構築を進めている。
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