研究実績の概要 |
ヒトを含む多くの真核生物は、精子や卵子などの配偶子を形成する過程で減数分裂を行い、遺伝的多様性を獲得する。過去十数年の研究から、エピジェネティクス制御に関わる因子の多くが精子形成過程に重要な役割を果たすことが明らかとなっている。とりわけ、ヒストンH3の修飾酵素の多くは、精子形成過程の途中、特に減数分裂で重要な役割を担っていることが明らかとなっている。 過去に申請者らは、精巣に特異的に発現するヒストンH3バリアントであるH3tが精子形成過程に必須であり、H3t欠損を欠損すると無精子症となることを明らかとした(Ueda, J., et al., Cell Reports, 2017)。そして正常な精子形成過程ではH3.1/H3.2がH3tに置き換わっていることを解明した。 本申請課題は、「H3tがどのようなメカニズムでゲノム中に取り込まれ、ゲノム中でどのような分子と相互作用することで染色体の高次構造や機能を制御しているのか?」を明らかにすることを目的としており、得られた知見を最終的には臨床医との共同研究を通じて男性不妊症の診断法や治療法の開発に繋げる。 これまでに、トロント大学のJinrong Min博士ら、基礎生物学研究所の中山潤一博士らとの共同研究によって、H3.1/H3.2よりもH3tの27番目のリジン残基のメチル化修飾に対してより結合能が高いポリコームタンパク質であるPHF1とPHF19の解析を進めてきた。これまでの解析からPHF1が精子形成過程の減数分裂期に発現し、H3K27meよりもH3t.K27meに対して何故高い結合能を有するかを構造学的に明らかにしている(論文投稿中)。現在、PHF1の精子形成過程での役割の解析を継続しており、併せて新規の結合分子の探索も進めることで、H3tの減数分裂期での役割を明らかにするための実験の準備を進めている。
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