昨年度までの解析からE3ユビキチンライゲースMindbomb1(Mib1)の発現強度レベルと乳がんの悪性化に負の相関があることが示唆された。本年度の解析より、比較的Mib1発現レベルの高い乳がん由来細胞株MCF7においてMib1をノックダウンすると細胞移動が亢進することが明らかとなった。生化学的な解析からMib1のノックダウンにより細胞間接着の制御に関わるCatenin delta1 (Ctnnd1)が不安定化することで、E-Cadherinによる細胞接着が減弱し、細胞移動が亢進されることが推察された。これはこれまでに申請者が報告しているMib1依存的なCtnnd1の機能制御とは異なり、新規の分子メカニズムであると考えられる。 そこでMib1がどのようにしてCtnnd1の安定化に関わるか検討したところ、先行研究でCtnnd1の安定化に関与することが知られているTGFβシグナル、Wnt/βcateninシグナル、TRIM25のいずれも乳がん細胞におけるCtnnd1の安定化には寄与していないことが明らかとなった。昨年度までにゼブラフィッシュの異種移植モデルを用いた解析かMib1をノックダウンしたした乳がん由来細胞株MDA-MB-231は生体内微小環境において細胞増殖が惹起されることを明らかにしている。以上のことから、Mib1は乳がん細胞において細胞増殖・細胞移動を抑制しており、Mib1の発現が低下することで細胞増殖・細胞移動が亢進し、悪性化が引き起こされると考えられる。 以上の解析結果について現在論文を投稿中である。またMib1依存的なCtnnd1の安定化の分子メカニズムを明らかにするため、CRISPR/Cas9システムと異種移植モデルを用いたスクリーニング系を構築中であり本助成期間終了後も解析を進める予定である。
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