研究課題/領域番号 |
19K06455
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
森 政之 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (60273190)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポルフィリン症 / モデルマウス / 遺伝子 / 組織障害 / 肝臓 / 皮膚 / 小胞体ストレス / タンパク質凝集 |
研究実績の概要 |
コプロポルフィリノーゲン酸化酵素(Cpox)遺伝子に活性低下型突然変異をもつBALB.NCT-Cpoxnctマウスを用いて、ポルフィリン症の発症機序の解明を進めた。 1~15ヶ月齢のBALB.NCT-Cpoxnctマウスの皮膚と肝臓における病態の加齢変化を詳細に調査した。雄においては2ヶ月齢以降の一部に真皮層の線維化と肥厚、皮下脂肪の薄化などの強皮症様の病態が認められた。しかしながら、その重篤度には個体間、および同一個体の中でも部位によってかなりの違いがあった。肝臓に関しては、雄においては2ヶ月齢以降の全ての個体に肝細胞と細部核の肥大、脂肪滴の貯留、マロリー体の形成、クッパー細胞の過形成などの重篤な病理変化が認められた。一方、雌においては皮膚と肝臓ともにどの月齢でも病理変化は認められなかった。 白内障について未病期である1ヶ月齢、および発症した3ヵ月齢のBALB.NCT-Cpoxnctマウスの眼レンズにおける遺伝子転写産物の種類とその発現レベルをRNA-Seq解析によって調査し、コプロポルフィリンの蓄積によって変化した遺伝子群を抽出した。その結果、小胞体ストレス反応のうちPKR-like endoplasmic reticulum kinase (PERK)経路が亢進していることが明らかとなった。マススペクトロメトリーにより、白内障レンズには小胞体ストレスの原因と考えうるケラチンを主とした凝集タンパク質が検出された。また、リン酸化eI2Eレベルが3~5倍に亢進しており、そのためにレンズにおける主たる構成タンパク質であり分子シャペロンでもあるαクリスタリンの合成レベルが顕著に低下していることが判明した。コプロポルフィリンの蓄積はこれらの反応を複合的に生じさせ、白内障発症に帰結するとの分子機序を明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コプロポルフィリノーゲン酸化酵素(Cpox)遺伝子変異マウスの皮膚、および肝臓におけるポルフィリン症病態、およびその加齢変化を詳細に明らかとした。また、RNA-Seq解析によってポルフィリン前駆体の蓄積に起因する遺伝子発現プロファイルの変化を明らかとした。一方、それを補完するプロテオーム解析、プロモーターメチル化解析などのエピジェネティック解析については進行が遅れている。 研究計画とは直接関連しないが、研究を進める過程でその副産物としてNCTマウスに認められる遺伝形質である波状被毛(wavy coat)の原因である遺伝子変異を同定することができた。すなわち、この形質の発現にはCpox遺伝子変異は無関係であることを証明し、さらにその根本的原因はprotease, serine 53 (Prss53)遺伝子の第1イントロンへのintracisternal A particle (IAP) エレメントの挿入変異であることを明らかとした。 問題点として、NCTマウスは妊娠率、および一腹出生仔数が低いなど繁殖性が悪く、かつ仔の成育も悪く、親による食殺も頻発するために、実験に使用できる個体数が制限された。そこで、一旦、NCTと繁殖性に問題が無いBALB/cマウスと交配し、その後にNCTに代々戻し交配を繰り返すことで、解析に必要なサンプル数を確保できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
NCTマウスおよびBALB.NCT-Cpoxnctマウスの肝臓において、タンパク質がコプロポルフィリンによって光非依存的に凝集されることで細胞の形態・機能が変化・撹乱され、肝臓に認められる病態(肝細胞と細部核の肥大、脂肪滴の貯留、マロリー体の形成、クッパー細胞の過形成)の発症を惹起していることを証明する。肝臓を用いて、細胞質において細胞骨格を構成するケラチン8、核膜の裏打ちタンパク質であるラミンA/C、小胞体内においてタンパク質の折りたたみを触媒するタンパク質ジスルフィドイソメラーゼなど、それぞれの細胞内小器官のタンパク質が凝集体を形成していることをウェスタンブロット解析、およびマススペクトロメトリーにより調査する。また、マウス肝臓、およびコプロポルフィリンを添加したヒト由来培養細胞(NT2(神経系)、Caco-2(消化器系)、SkMC(筋肉)、初代培養細胞(皮膚))において、コプロポルフィリンにより直接影響される遺伝子、および細胞内でのパスウェイ変動をRNA-seq解析により明らかとする。 NCTマウスおよびBALB.NCT-Cpoxnctマウスの肝臓、および皮膚における病態発症の性差の機序を解明する。性ホルモンの関与が想定されることから、雄マウスの精巣除去とエストロゲン投与、逆に雌マウスの卵巣除去とテストステロン投与を行い、肝臓と皮膚における病態の発症を検証する。さらに、RNA-seq解析により性ホルモンによる細胞内のパスウェイ変動を明らかとする。
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