研究課題/領域番号 |
19K06459
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
大塚 哲 金沢医科大学, 総合医学研究所, 准教授 (40360515)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ES細胞 / LIFシグナル / Esrrb |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ナイーブ型多能性幹細胞における安定な自己複製の機構を明らかにすることである。本研究ではナイーブ型幹細胞としてマウスES細胞を用いて実験を行なった。 マウスES細胞において、血清条件下での安定的な自己複製は、サイトカインLIFおよび遺伝的背景(マウス系統)に強く依存する。このマウス系統差の原因を明らかにするために、血清条件下において安定して自己複製できる129系統と、この条件では自己複製できない1型糖尿病モデル系統(NOD)から、無血清2i培養法を用いて ES細胞株を樹立した。そして、これらの細胞において、血清条件下での遺伝子発現の比較を行い、129系統ES細胞において特異的に発現が維持される転写因子としてEsrrbを見出した。このEsrrbをNOD系統ES細胞において安定発現株させると血清条件下においても自己複製できるようになる。この理由として、本年度は、Esrrbが、血清条件下の自己複製に必須なLIFシグナル構成因子群の発現を維持することで、NOD由来ES細胞の血清条件下での自己複製を支持していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下の研究を行った。 NOD系統に由来するES細胞の培養環境を、2i無血清条件から血清条件下へ移すと、12時間以内にEsrrbのmRNAおよびタンパクが完全に消失する。このEsrrbをNOD系統ES細胞において安定発現株させると血清条件下においても自己複製できるようになる。そこで、EsrrbのDOX依存的な発現誘導系を構築し、Esrrbが、どのようにして血清条件下での自己複製を支持しているのかを解析した。その結果、DOX依存的に自己複製でき、かつこの細胞はキメラ寄与能を維持していた。 血清条件下での自己複製に必須なLIFシグナルに関与する因子群の発現が亢進していることを見出した。また、Esrrbがこれらの遺伝子の転写制御領域へ直接結合していることも確認できた。これらのことから、EsrrbはLIFシグナルを直接制御して自己複製を支持していると考えられる。 上記の結果から本申請課題は概ね順調に遂行できていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ラットES細胞も、NOD由来ES細胞と同様に血清条件下において自己複製することができない。このラット由来ES細胞においてEsrrbの単独発現だけで血清条件下での自己複製できるようになるのかどうかを検討する。ラットES細胞の血清条件下での主要な多能性関連遺伝子の発現状態と各種シグナルの標的遺伝子群について、それらの発現状況を調べ、マウスの場合とどのような点で異なるのかを明らかにする予定である。 また、NOD系統に由来する受精卵でのEsrrbの過剰発現系を用いて、血清条件下のみでのES細胞樹立を行う。ES細胞における多能性の獲得と維持におけるEsrrbの役割を明らかにする予定である。
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