研究課題
てんかんは、国民病とも呼ばれる最も多い慢性脳疾患の1つである。特に内側側頭葉てんかん(Mesial temporal lobe epilepsy; MTLE)は成人てんかんの中で最も多く、意識喪失をともなう発作中の転落、溺水、運転事故が後を絶たない。薬物療法や外科的治療が有効ではあるが未だ約3割が難治であり、てんかん患者は長期にわたって身体的・心理的・社会的・経済的な負担を強いられる。本研究では、この3割の難治てんかんの根治を目指し、申請者らが見出した新規てんかん原因遺伝子Girdinのホモノックアウト(GirdinホモKO)マウスを用いてこれまでにない新たなてんかん原理の解明と治療法の開発を目指す。Girdin/ccdc88aは、Aktの基質として同定されたアクチン結合タンパクである。Girdin germline global knockout (Girdin KO)マウスは、完全浸透率にて自発性のGTCSsをおこす。本年度は、主にGirdin KOマウスの脳の病態を組織学的に解析することに注力した。その結果、顕著な歯状回分散、アンモン角での顕著な神経細胞の脱落、GFAP陽性活性化アストロサイトの出現伴う海馬硬化が観察された。これらは、ヒトMTLEの典型的な病理学的特徴である。以上の結果より、少なくとも病理学的観点において、Girdin KOマウスの病態はヒトMTLEの病態と類似していることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、当初の計画通り、4ヶ月齢のGirdin ホモKOマウスの脳の組織学的解析を行なった。クリューバー・バレラ染色および抗NeuN抗体を用いた免疫組織化学染色により、GirdinホモKOマウスの両側海馬において、歯状回分散が確認された。一方、野生型およびGirdinヘテロKOマウスでは、歯状回分散は確認されなかった。また、GirdinホモKOマウスのアンモン角では、CA1からCA3の全領域に渡って錐体細胞の顕著な消失が確認された。抗GFAP抗体を用いた免疫組織化学染色では、GirdinホモKOマウスの両側海馬において、海馬硬化の指標である活性化アストロサイトの増生が確認された。活性化アストロサイトの増生を伴う損傷は、海馬領域に限定的であった。これらは、ヒトMTLEの典型的な病理学的特徴として知られる。また、さらに、生後4ヶ月齢に加え、生後7日、生後28日時点での解析を行なった結果、歯状回分散、錐体細胞の消失、および活性化アストロサイトの増生を伴う病態は、加齢とともに徐々に進行することがわかった。本研究成果により、病理学的観点において、Girdin KOマウスがヒトMTLEのモデルマウスとなりうる可能性が示された。また、MTLEの発症機序を解明するにあたり、ヒトでは侵襲性を伴う経時的な解析は不可能であるが、GirdinホモKOマウスを用いれば、進行性のてんかん病態に対して様々な時点で介入解析が可能である。
GirdinホモKOマウスが、ヒトMTLEのモデル動物となりうることを示すには、1. 表面妥当性、2. 構成妥当性、3. 予測妥当性を明らかにする必要がある。MTLEの表面妥当性としては、1)損傷が海馬に限定的であること、2)古典的海馬硬化であること、3)海馬を起点とした自発性てんかん発作であることを証明する予定である。1)損傷が海馬に限定的であること、2)古典的海馬硬化であることについては、すでに一定レベルの組織学的結果が出ているが、さらに複数の視点から証拠を揃えるとともに質的解析と量的解析の両方から検証を進める予定である。てんかん機序解明については、介在ニューロン、苔状繊維、樹状突起形態やシナプス形成に着目した解析を進めるとともに、Girdin KOマウスのてんかん発作の発症パタンや脳波解析を行う。興奮性ニューロンあるいは抑制性ニューロンにおけるGirdinの機能を明らかにするために、研究分担者との共同により、興奮性あるいは抑制性ニューロン特異的にGirdinがKOされるコンディショナルKOマウスの作製を行う予定である。また、製薬メーカーとの共同研究による抗てんかん薬の開発にも取り組む予定である。
Girdin KOマウスの成獣化には特殊な飼育法が必要である。当研究所の動物施設の新設に伴い、Girdin KOマウスの飼育環境の整備に時間を要した。そのため、今後予定している、MTLEモデル動物であることの証明、介在ニューロン、苔状繊維、樹状突起形態やシナプス形成に着目した解析、脳波解析、コンディショナルKOマウスの作製および解析に使用する予算を次年度以降に使用する必要が出てきた。尚、Girdin KOマウスの飼育環境は本年度中に確立できたため、次年度以降は安定した生産体制が見込める。
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