研究課題/領域番号 |
19K06464
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研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
飯田 真智子 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 障害モデル研究部, 研究員 (60465515)
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研究分担者 |
浅井 真人 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 障害モデル研究部, 部長 (70543536)
田中 基樹 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 障害モデル研究部, 研究員 (90584673)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | てんかん / モデル動物 |
研究実績の概要 |
てんかんは慢性脳疾患の1つである。特に内側側頭葉てんかん(Mesial temporal lobe epilepsy; MTLE)は成人てんかんの中で最も多く、意識喪失をともなう強直間代発作を起こす。薬物療法や外科的治療が有効であるが、未だ約3割が難治である。Girdin/ccdc88aは、アクチン結合タンパク質として同定された。我々の研究グループは、これまでにGirdin germline global homo knockout (Girdin KO)マウスが、完全浸透率にて自発性のGTCSsを起こすことを見出している。本研究では、このGirdin KOマウスを用いて新たなてんかん原理の解明を目指す。昨年度までに、Girdin KOマウスの脳において、ヒトMTLEの病理学的特徴である歯状回分散、アンモン角での神経細胞の脱落、GFAP陽性活性化アストロサイトの出現伴う海馬硬化を見出し、Girdin KOマウスがヒトMTLEの病態モデル動物となる可能性を示した。本年度の主な成果は、1. 共同研究によりGirdin KOマウスに生じるてんかん脳波の測定に成功したこと、2. Girdin KOマウスの生後7日目の脳において、大脳皮質および海馬において抑制ニューロン(Gad65/67陽性ニューロンおよびPV陽性ニューロン)の部分消失を明らかにしたこと、3. 脳室下帯において幼若ニューロンの異常分布を確認したことである。これらの成果は新規てんかん分子Girdinとてんかん病態との関連を明らかにする上で重要な発見であるといえる。さらに、他研究室や製薬企業との共同研究を開始し、Girdin KOマウスのてんかん病態解明の解明を多角的に進めている。論文投稿に向け、論文執筆も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画:GirdinホモKOマウスが、ヒトMTLEのモデル動物となりうることを示ために、1. 表面妥当性、2. 構成妥当性、3. 予測妥当性を明らかにする。MTLEの表面妥当性としては、1)損傷が海馬に限定的であること、2)古典的海馬硬化であること、3)海馬を起点とした自発性てんかん発作であることを証明する。てんかん機序解明については、介在ニューロン、苔状繊維、樹状突起形態やシナプス形成に着目した解析を進めるとともに、Girdin KOマウスのてんかん発作の発症パタンや脳波解析を行う。興奮性ニューロンあるいは抑制性ニューロンにおけるGirdinの機能を明らかにするために、研究分担者との共同により、興奮性あるいは抑制性ニューロン特異的にGirdinがKOされるコンディショナルKOマウスの作製を行う。また、製薬メーカーとの共同研究による抗てんかん薬の開発にも取り組む予定である。 進捗状況:予定通り、MTLEモデル動物であることの証明、抑制ニューロンおよび苔状繊維等に着目した組織学的解析、脳波解析を行うことができた。コンディショナルKOマウスの作製も順調に進んでいる。第一回目の交配では予想通りの表現型が得られなかったため、現在、異なるプロモータ下でのコンディショナルKOマウスの作製を進めている。解析に十分な個体数が得られ次第、解析を進める予定である。さらに、本年度は、他研究室、製薬企業との共同研究を開始できたことが有意義であった。所外の研究者との研究交流により、Girdin KOマウスのてんかん病態解明が多角的に進んでいる。論文投稿に向け、論文執筆も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果として、Girdin KOマウスの大脳皮質および海馬における抑制性ニューロンの欠損を明らかにした。本年度は、これらの欠損の原因を明らかにするために胎性期における抑制ニューロンの発生を解析する予定である。免疫組織化学法により胎性期におけるGirdinの発現パタンを調べるとともに、野生型マウスとGirdin KOマウスにおける抑制ニューロンの数・形態・分布様態を比較する。さらに、抑制ニューロンの欠損がGirdin KOマウスのてんかん病態に及ぼす影響を明らかにするために、研究分担者とともに電気生理学的実験も進める。また、Girdin KOマウスに生じた脳波解析を他研究機関ならびに小児神経医師との共同研究の協力により進めることで、Girdin KOマウスにおけるてんかん病態を明らかにするとともに、ヒトてんかんの治療に役立つモデル動物としての地位を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一回目の交配では予想通りの表現型が得られなかったため、新たなプロモータを用いたコンディショナルKOマウスの作製を行っており、この新たなKOマウスにおける抑制ニューロン、歯状回、海馬硬化等に着目した病理解析に必要な費用を次年度以降に使用する必要が出てきた。病理解析の方法は確立しているので、研究の進捗に大きく影響しない。来年度の予算は、上記に加え、今後の研究の推進方策にも記述した通り、モデル動物の維持費、胎性期における抑制ニューロンの発生解析、電気生理学的実験、脳波解析に使用する予定である。
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