研究課題/領域番号 |
19K06470
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
越本 知大 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 教授 (70295210)
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研究分担者 |
三谷 匡 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (10322265)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 性染色体 / トネゲズミ属 / 減数分裂 / X-精子/O-精子 |
研究実績の概要 |
哺乳類のY-染色体は進化の過程で矮小化し、消失する途上にあるとする仮説もJ Gravesらによって提唱され、Y-染色体を持たないXO-型性染色体を有する哺乳類が3種存在する事が知られている。このうち2種は、日本固有種で2016年には種の保存法のより稀少野生種に指定されたアマミトゲネズミ(Tokudaia. oshimensis)とトクノシマトゲネズミ(T. tokunoshimensis)で、これら稀少な日本の哺乳類は哺乳類の性決定機構進化の究極にあると考えられているユニークな研究資源と位置づけることができる。しかしその特異な性決定機構には不明な点が多く残されている。同種は絶滅危惧の希少種であり、研究資源とすることが困難な状況にある。しかし我々は希少種の保全生物学的な取組みを長年にわたり継続してきた結果として、これら希少種を生息域外で維持する技術を確立するとともに、精子試料を入手し、研究活用することを可能とした。そこでトゲネズミ成熟精子の性染色体比を計数し、XO型染色体構成を有する特徴的なほ乳類の減数分裂の様式を直接議論できる根拠を提示をすることを目標に研究計画を立案した。現在までに精子に含まれる染色体の違いを反映したDNA含量の微量な差によるポピュレーションを、FACSを用いて分離し、異なる性染色体の差による精子の構成を明示すための解析条件を設定するため、マウスおよびヨーロッパモリネズミを対象に試験を重ねてきた。しかしDNA含量の微小な差を反映させて、精子群を明確に分離する条件件設定に苦慮しており、これと並行して異なるアプローチを検討することとした。また研究に付随して希少種のハンドリング技術を確立する目的で、モデル動物を用いてエキゾチック齧歯類の麻酔法の検討を行ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
稀少種のサンプルで試験を行う前段階として、FACSCaliberを用いたX-/Y精子の選別条件条件の設定を、マウス(Mus musculus)に加えて、系統分類学上、トゲネズミ(Tokudai)属により近縁で、我々が実験動物化して維持するヨーロッパモリネズミ(Apodemus speciosus)精子を対象として、種間差も考慮しながら継続した。前年度実験の結果からマウス精子試料を冷エタノールにより前固定し手染色条件を整えたうえでC548 (同人化学)で染色し、解析条件を再調整した結果、半数のサンプルで分離度が向上する結果を得たが両群の完全分離は達成できず、確実なX-Y精子分画の選別条件の設定はかなわなかった。今後条件の洗練、ないしはより解像度の高いFACSaria:の適用等を検討する。またトゲネズミに分類群の近いヨーロッパモリネズミ精子に対して同様の試験を実施したところ、マウス精子と較べて分離能は低下し、試行した全ての条件で二峰性のポピュレーション分布は確認できず、種によって分離条件が異なる可能性が明らかとなった。ここまでの結果を踏まえてFacs法の条件設定試験とは別に、種による詳細な条件設定を必要としない精子分離のアプローチを再度模索し直すこととした。すなわち適用手技の方向性を転換し、FISH 法による精子判別の検討に入った。しかし本法は我々の研究室では全く始めて試みる手技であり、基本技術の導入や実験条件の設定について、ゼロからの導入を開始すると共に、トゲネズミ精子に対して機能する適切なプローブの作成/入手についても着手する必要があった。年度後半はこれらについて試験検討を開始し、感染症が拡大する中で、可能は部分から徐々に進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
初年度より進めてきた精子細胞中のDNA含量差によるFACSを用いた分離条件の検討について、未だ改善の余地が多く残されていることから、引き続き分解能を高める条件および種間差を克服する適正条件の確立に向けての試験を継続して実施する。更に目的を達成するためのBプランとして、FISH法による判定系の確立とX-、Y-精子の分離を目指した試験を並行して実施することでブレイクスルーを目指す。後者に関しては当初、ゼロからの技術確立が必要で、特にトゲネズミX染色体に反応するプローブの確立が困難であると予測したことから第一選択肢とはしてこなかったが、トゲネズミのBacクローンを所有するラボからX染色体特異的プローブ及び陽性コントロールとしてのトゲネズミ常染色体のクローンを分与提供頂く段取りが整ったことに加えて、FISH法の基本プロトコルと手技についても情報を提供頂く事で連携体制が構築できたことから試行するに到った。FISH法はFACS法に較べて分析に必要な精子試料が格段に少数で実施できる事から、今後は新型コロナ感染症の状況を見ながら、直接技術指導を乞う事も含めて分子生物学的な技術の移転に努めたうえで、早急に実験系を確立するよう努める。またハイブリダイズした蛍光染色試料の観察に必要な高解像度蛍光顕微鏡は、画像解析ソフトウエアを含めて学内に利用可能な機器を確保できており、研究環境も整いつつある。今後はプローブの作成が完了した時点でマウス、ヨーロッパトゲネズミ、更には我々が維持する多様な野生動物由来のリソース齧歯類を対象としてプローブの交差性試験を実施して、作成したプローブの機能性と確立した手技の適正性確認した上で、2 color multi-hybridizationによるトゲネズミX精子の選別を実施する事を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の第一段階であるFACSを用いたX-/O-精子のソーティングの条件設定に予想以上に手間取ったうえ、種間差の問題にも直面したことに加え、コロナウイルス感染症の持続的な蔓延と言う予想外の社会情勢もあいまって研究に遅延が生じた。そこでFACS法とは異なるアプローチを再検討し、その前提条件を整えることに時間を費やしたことで、消耗品や消耗機器に割り当てた予算、学会等の参加に割り当てた旅費等の予算が当初予算額を下回った。前者については次年度に分子生物学的手法を用いたFISH法による解析を計画したことから、高額の試薬を一から揃えることとなり、場合によっては旅費等の予算も含めて、経費を集中的に充て、研究のブレイクスルーを目指す事として次年度にくり越す。
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