研究課題/領域番号 |
19K06474
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
河野 菜摘子 明治大学, 農学部, 専任准教授 (00451691)
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研究分担者 |
宮戸 健二 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, 室長 (60324844)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒト型精液 / 補体C3 / 精子選抜 |
研究実績の概要 |
本研究では、生殖免疫における補体C3とそれを制御する精液タンパク質の関係を、『ヒト型精液を持つモデルマウス』を用いることで解明し、発生工学から生殖医療へ直結する知見の獲得ならびに新規な自然免疫機構を解明することを目的としている。子宮内で観察される活性化状態のC3が精子膜上のどの分子をターゲットとしているか同定し、それに対して精液タンパク質がどのように抗補体活性を有するのか、発生工学では類を見ない『ヒト型精液を持つモデルマウス』を用いることで、生殖研究者以外には興味を持たれていない精液成分が有する可能性(自然免疫抑制、子宮内細菌叢のヒト型への変換)を追求するモデルとする。 課題1「ヒト型精液モデルマウスの表現型解析」において、昨年度、ヒトSemgI/IIを発現するマウスが妊孕性回復することが明らかとなった。そこで今年度は、マウス体内におけるヒト精液タンパク質SemgI/IIの機能について、マウス精液タンパク質SVS2と比較しつつ検証した。その結果、マウスSVS2は精子保護能だけでなく、精子運動活性化機構を備えていることが明らかとなった。一方、ヒトSemgI/IIでもマウス精子を保護する機能は見られたが、その活性化機構に違いがあることが分かった。 課題2「子宮の補体機能の解析」では、飛躍的に解析が進んだ。これまで活性化状態のC3は検出できていなかったが、今年度は検出方法を変えたことにより、C3bの検出が可能となった。その結果、精子細胞膜上で補体シグナルが進むことが明らかとなり、現在はC3活性化に関与する分子の特定を進めている。 課題3「ヒト子宮内液のC3解析」では、新型コロナウイルスの流行に伴い病院で基礎研究のためのサンプリングが実施できなくなった。このため、2021年度も進んでいない状況にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題3では思うような実験ができていないが、その代わり課題1および課題2において、想定より研究が進んでいる。 課題1では、機能代替できることが分かったマウスSVS2とヒトSemgI/IIについて、その活性化機序に違いがあるという結果が得られた。マウスSVS2は精子が持つプロテアーゼによってペプチド化し、そのペプチドが精子保護能を有するが、ヒトSemgI/IIはマウス精子のプロテアーゼでは活性化しにくいこと、代わりに前立腺から分泌されるPSAによって断片化され、ペプチドが得られることが分かった。この機能代替する二つのタンパク質にも、活性化メカニズムには種特異性があることが興味深い。 課題2では、マウス精子の細胞膜表面で補体C3がC3bへと活性化することを明らかとした。これまでも、精子表面に存在するC3の検出を行ってきたが、精子の生存が明らかとなる3時間培養後の精子をサンプルとしてきた。しかし子宮内液のC3と共培養を始めて10分の精子においてC3bが検出され、長時間の培養はC3bをさらに分解する結果となっていたため、ウエスタンブロットで検出されなかったことが明らかとなった。すなわち、補体が活性化され、精子が攻撃される時間のオーダーに大きな誤りがあったことが原因で、これまで検出されなかったと考えられる。2021年度には、補体C3が精子表面で活性化することが明らかとなったことから、2022年度ではその詳しいメカニズムを解明し、論文としてまとめられると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、ここまで進めて来た結果をまとめて論文として投稿する。とくに課題2の補体C3は生殖分野の根底を揺るがる大きなテーマとなるため、データを蓄積する必要がある。 課題3のヒト子宮内液の解析も、コロナ禍が下火になっているタイミングで再開できるよう、病院と交渉していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
機関のシステムによるもの。
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