【最終年度に実施した研究の成果】 課題1「ヒト型精液モデルマウスの表現型解析」では、マウス精子が有するセリンプロテアーゼによって精嚢タンパク質SVS2が効率的に分解されることが明らかとなった。ヒトでは前立腺PSAによって精嚢タンパク質SemgIが分解されることが知られているが、マウスPSAは偽遺伝子化しており存在しない。マウス精子のプロテアーゼはヒトSemgIも分解することが判明したが、PSAほどの切断効率は認められず、最終的に生成されるペプチドも異なったことから、この過程には種特異性が存在する可能性も考えられた。 課題2「子宮の補体機能の解析」は、思うように研究が進まなかった。これまでに報告されている補体研究のほとんどはヒト・in vitro実験で構成されており、実験材料や実験結果が本研究には当てはまらなかった。一方、細菌への反応とは別に、子宮内液が精子を殺す作用は安定的に観察され、FactorBが殺精子作用に関与すると考えられた。一般的な補体経路ではない「副経路」をつかって雌は精子を選抜している可能性がある。 【期間全体を通じて実施した研究の成果】ヒト精液タンパク質SemgI/IIを精液中に有するヒト型精液モデルマウスの作製に成功した。このマウスの妊孕性が回復したことで、マウス精嚢タンパク質SVS2-6とヒトSemgI/IIが機能的に相同な分子であることも証明できた。一方で、雌子宮内で精子が死ぬメカニズムは、補体C3が鍵になること、さらに精子の膜表面上でC3bの活性化型になることが明らかとなった。しかし本研究期間中に、その詳細なメカニズムを明らかにすることは難しく、ヒトSemgタンパク質との相互作用まで踏み込めなかった。今後、FactorBの欠損マウスを使用して補体の副経路について研究を進めていく予定である。
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