多因子疾患の発症メカニズムとして、ゲノムのシス制御配列のバリアントに基づく遺伝子発現量の変動が重要であることが提唱されている。シスバリアントの疾患表現型への影響を明らかにする目的で、ヒルシュスプルング病を対象とし、マウスによる多因子疾患のモデリングを行った。 加齢とともに低頻度でヒルシュスプルング病様の症状を呈するJF1マウスは、リスク因子であるエンドセリン受容体遺伝子(Ednrb)にレトロトランスポゾンの挿入があることが知られている。CRISPR/Cas9系を用いたゲノム編集によってJF1ゲノムからこのレトロトランスポゾンを除去した系統を樹立し、白斑症状の改善がみられた。さらに、このマウスの遺伝子発現解析により、エンドセリンシグナリングの回復を確認した。 マウス亜種の西欧産ドメスティカスと日本産モロシヌスの間には、膨大なゲノム多型が存在する。この2系統の亜種間交配F1個体において、転写産物上の配列多型は遺伝子のアレル発現を識別することを可能にする。C57BL/6(ドメスティカス亜種)とJF1(モロシヌス亜種)をレシプロカルに交配したF1雑種を作製し、pyroシーケンシング法、アンプリコンシーケンシング法ならびにRNA-seqによって系統特異的なアレルを区別した遺伝子発現解析を行った。その結果として、C57BL/6とJF1マウスでアレル発現差のある遺伝子群をリストアップすることができた。C57BL/6とJF1マウスで異なる発現を示すヒルシュスプルング病関連遺伝子について、シス制御配列の探索を行った。
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