研究課題
細胞内には、細胞膜に覆われていない非膜性の構造体が多数存在しており、混み合った細胞内環境において、特定の因子を集める区画を形成している。このような区画化により、生化学反応の促進や特定の因子の隔離など重要な機能を果たしていることがわかってきている。この過程は、相分離と呼ばれる物理現象により形成され、神経変性疾患などの病態との関連からも注目されている。このような非膜性構造体の多くのものには、RNAが構成因子として含まれているが、その役割は十分には理解されていない。私たちは、このような非膜性構造体のうち、一群のものがRNAが必須の骨格となり形成されていることを明らかにし、このような機能を持つRNAをarchitectural RNA (arcRNA)と名付け、その形成過程及び機能を集中的に解析してきた。申請者は、arcRNAの内、体表的なNEAT1_2 lncRNAが作り上げる非膜性構造体パラスペックルについて特に集中的に解析を行ってきた。その結果、arcRNAは構造体の設計図となり、複数の機能RNPドメインにより、パラスペックルの性質および機能が規定していることがわかってきた。そこで、本研究では、このRNAにより構築される相分離構造体形成の根幹となる分子原理を解明することを目的に研究を進めた。これまでに、パラススペックルの細胞内配置を規定するメカニズムについて解析を進め、その機構に関わるタンパク質を複数同定した。また、パラスペックルが持つ特徴的なコアシェル構造がどのように作られるかについても解析を行い、ソフトマター物理学理論を取り入れ、パラスペックルがブロック共重合体のミセルとして形成されていることを明らかにし、RNAが持つ構造体形成の新たな可能性を見出すに至った。また、人工的に構造体を作り上げる実験系も確立し、構造体形成原理をの根幹を理解する基盤を作り上げた。
1: 当初の計画以上に進展している
RNAを骨格とする人工的な相分離構造体の形成実験システムを構築に成功し、様々な構造体の核となるタンパク質を同定した。今後、この実験系を用いることで相分離をde novoに誘導できるタンパク質群を網羅的に探索することができるプラットフォームが完成した。また、当初は予定していなかったソフトマター物理学の理論を取り入れた解析を進め、パラスペックルがブロック共重合体ミセルとして形成されていること示した(Yamazaki et al., EMBO J 2021 in press)。この結果は、RNAータンパク質複合体(RNP)がブロック共重合体として働くこと、非膜性構造体の新規の構築原理として、ミセル化というメカニズムが存在することを明らかにしたものである。以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
非膜性構造体が細胞内でどのような配置をとるかを決めるメカニズムについて、同定してきたタンパク質について、より詳細な解析を進める。精製タンパク質を用いた解析、分子動力学シミュレーションなどを駆使し、理論的な考察も取り入れ、非膜性構造体一般に通じる原理の確立を目指す。また、人工的な構造体の形成実験系で見出した相分離を誘導できるタンパク質について、その形成および機能発現メカニズムについて解析を進める。RNPがブロック共重合体として働くことの分子的な基盤の解析、さらにその形成機能のさらなる実証実験などを進め、RNPの可能性をさらに追究する。
物品が欠品していたため、手配に時間を要し、年度内に予算執行できなかった。次年度早々には、納品される予定である。
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