研究課題/領域番号 |
19K06480
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
武藤 哲彦 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (80343292)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | B細胞 / 形質細胞 / クラススイッチ / Bach2 |
研究実績の概要 |
本研究は、獲得免疫の一翼を担うBリンパ球(B細胞)は、抗原で活性化されると抗体を分泌する形質細胞へ分化する。その過程で、一部のB細胞はクラススイッチ応答を経て、IgMからIgG、IgA、IgEなどへ抗体の遺伝子情報を改編し、ほかのアイソタイプ抗体を産生するB細胞に分化する。さらに、活性化B細胞のなかには、記憶B細胞へ分化するB細胞もいる。このように、B細胞の活性化応答では、多様な細胞運命の選択肢がある。この細胞の多様性および応答した細胞の数を規定するふたつの要素は、分化の誘導刺激への反応および、細胞増殖の回数である。たとえ同じ抗原を認識するB細胞集団であっても、活性化応答の様式は細胞ごとに異なる。そこで、免疫応答の多様性を生み出すメカニズムは何かとう問いをこの多様性を有無メカニズムをシングルセル解析手法により明らかにすることを目指す。本研究からリンパ球の増殖や分化を制御するメカニズムを解明し、免疫応答の統合的な理解につなげたい。応答の多様性は、外的要因である抗原刺激の強度とT細胞が分泌するサイトカインに代表される共役刺激との組み合わせで調節される。この環境からの刺激の種類と強度が、細胞分化の方向性と増殖規模に影響する。一方で、環境からの刺激に応答するB細胞自体の内的要因が確率的な運命選択に寄与すると考えられているが、この実体は未解明である。本年は、申請者がB細胞の内的要因の有力な候補因子と考えている転写因子Bach2とその細胞内タンパク質量を規定するメカニズムの一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、転写因子Bach2が、活性化刺激に応答してB細胞の運命を決定する内的要因の一因であることを見出してきた。すなわち、形質細胞への分化を抑制し、クラススイッチを実行するB細胞への運命決定に必須であることをマウス遺伝学的手法で解明してきた。その後、個々のB細胞におけるBach2の発現量の違いが活性化B細胞の運命決定に影響する可能性を提唱してきた。すなわち、Bach2の発現量が多いB細胞はクラススイッチを実行する傾向があるというデータを得ており、一方でBach2の発現は、形質細胞分化の過程で徐々に低下することがわかっていた。Bach2の発現は転写レベルで低下することに加えて、Bach2はヘムの直接結合を介して、タンパク質レベルで負に制御される。そこで、ヘムに結合したBach2に特異的に結合するタンパク質複合体をスクリーニングした結果、ユビキチン化の基質認識アダプターのひとつであるFbxoタンパク質を同定した。このFbxoタンパク質をノックダウンするとBach2タンパク質量が蓄積することをB細胞株で見出した。さらに、Bach2とFbxoタンパク質を共発現させたところ、Bach2タンパク質のユビキチン化修飾が亢進することを見出した。したがって、活性化刺激に応答して、内的要因としてのBach2の発現量は、ヘム結合によりユビキチン化修飾複合体が結合し、ユビキチン化によりプロテアソーム系で分解されることで減少する制御を受ける可能性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
未分化なB細胞の集団は、予備的なシングルセル定量PCR解析の結果、Bach2と協調する候補因子を同定している。そこで、今後は、これらの因子をノックダウンすることで、B細胞分化過程を検証する。逆に、過剰発現することによって、未分化B細胞がクラススイッチする頻度および、形質細胞へ分化する頻度を検証し、さらに、遺伝子発現における変化の有無を検証する。その上で、この過剰発現の系に、Bach2レポーターマウス由来のB細胞を用いることによって、Bach2の発現量と過剰発現の効果を併せて検証することにより、Bach2と協調する因子の役割を証明する。
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