研究課題/領域番号 |
19K06481
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松尾 芳隆 東北大学, 薬学研究科, 講師 (00725252)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リボソーム / ユビキチン化 / 品質管理 |
研究実績の概要 |
遺伝子発現の異常は生命の根幹を揺るがす問題であり、多くの疾患の原因になっている。そのため、細胞は遺伝子発現の過程で生じた異常産物を認識・分解す る様々な仕組みを備えている。 翻訳停滞に起因する品質管理機構は、翻訳伸長の停滞を異常と認識し、その産物を分解する機構である。翻訳停滞とは、翻訳の伸長速度が著しく低下した状態をさし、連続したレアコドンや、合成された新生ペプチド鎖中の塩基性アミノ酸とリボソームトンネル内の強い相互作用などによって生じる。この状況下では、 一定の割合で翻訳の強制終了を意味するリボソームのサブユニット解離が起こり、途中まで合成されたペプチド鎖は解離後の60Sサブユニット上に保持される。 保持された新生ペプチド鎖は、E3ユビキチンリガーゼであるLtn1によってユビキチン化され、プロテアソームによって分解される。 停滞したリボソームを認識し、終止コドン非依存に解離させる過程は、一連の反応を誘導するか否かを決定する重要なステップである。我々は品質管理機構を 誘導させる最初のステップとして、E3ユビキチンリガーゼであるHel2によるリボソームタンパク質uS10のユビキチン化が必須であることを発見した。一方で、翻訳の伸長速度はmRNAの安定性や新生ペプチド鎖の折りたたみとも密接に関わっており、翻訳伸長速度の低下が必ずしも異常な翻訳というわけではなく、Hel2がどのようにして翻訳停滞の異常と正常を区別するのか、また、その後の終止コドン非依存のサブユニット解解はどのようにしておこるのか、という点については不明なままであった。 そこで本研究では、異常な翻訳停滞を識別する分子機構、ならびにその後の終止コドン非依存型サブユニット解離機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、翻訳停滞からリボソームのサブユニット解離までの一連の反応を試験管内で再構成することで詳細な分子機構の解明を目指している。 昨年度は、強い翻訳停滞を引きおこす内在性配列の探索を試み、強い翻訳停滞を引き起こし品質管理機構の対象となるSDD1遺伝子の同定に成功している。また、無細胞タンパク質合成系を用いて、SDD1 mRNA上での翻訳停滞の再構築に成功しており、今年度は、Hel2によるユビキチン化反応とその次のステップであるユビキチン化に依存したサブユニット解離の再現を試みた。その結果、翻訳停滞からユビキチン化を介したサブユニット解離までの多段階反応を試験管内で再現することに成功した。得られた結果では、翻訳停滞によって衝突したリボソーム特異的にuS10のユビキチン化が観察され、さらに、ユビキチン化されたTrisome構造体(3つのリボソームからなる構造体)が、RQT複合体の作用によって特異的にサブユニット解離することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、翻訳停滞からリボソームのサブユニット解離までの一連の反応を試験管内で再構成することで詳細な分子機構の解明を目指している。 これまでに、強い翻訳停滞を引き起こす内在性配列をSDD1遺伝子に見出し、その配列を用いて、翻訳停滞からユビキチン化を介したサブユニット解離までの多段階反応を試験管内で再現することに成功している。そこで今後は、Hel2によるユビキチン化やRQT複合体によるサブユニット解離が、衝突リボソームのどこでおきているのか、その位置関係を明らかにすべく解析を進める。
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