遺伝子発現の異常は生命の根幹を揺るがす問題であり、多くの疾患の原因になっている。そのため、細胞は遺伝子発現の過程で生じた異常産物を認識・分解す る様々な仕組みを備えている。 翻訳停滞に起因する品質管理機構は、翻訳伸長の停滞を異常と認識し、その産物を分解する機構である。翻訳停滞とは、翻訳の伸長速度が著しく低下した状態 をさし、連続したレアコドンや、合成された新生ペプチド鎖中の塩基性アミノ酸とリボソームトンネル内の強い相互作用などによって生じる。この状況下では、 一定の割合で翻訳の強制終了を意味するリボソームのサブユニット解離が起こり、途中まで合成されたペプチド鎖は解離後の60Sサブユニット上に保持される。 保持された新生ペプチド鎖は、E3ユビキチンリガーゼであるLtn1によってユビキチン化され、プロテアソームによって分解される。 停滞したリボソームを認識し、終止コドン非依存に解離させる過程は、一連の反応を誘導するか否かを決定する重要なステップである。我々は品質管理機構を 誘導させる最初のステップとして、E3ユビキチンリガーゼであるHel2によるリボソームタンパク質uS10のユビキチン化が必須であることを発見した。一方で、翻 訳の伸長速度はmRNAの安定性や新生ペプチド鎖の折りたたみとも密接に関わっており、翻訳伸長速度の低下が必ずしも異常な翻訳というわけではなく、Hel2がど のようにして翻訳停滞の異常と正常を区別するのか、また、その後の終止コドン非依存のサブユニット解解はどのようにしておこるのか、という点については不 明なままであった。 本研究では、翻訳停滞からリボソームのサブユニット解離までの一連の反応を試験管内で再構成することに成功し、異常な翻訳停滞を識別する分子機構、ならびにその後の終止コドン非依存型サブユニット解離機構を明らかにした。
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