研究課題/領域番号 |
19K06486
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 綾 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(RPD) (40595112)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 相同染色体 / synapsis / 減数分裂 / 線虫 / 交叉 / 対合 |
研究実績の概要 |
減数分裂において相同染色体間に形成される交叉は、DNA二重鎖切断から始まる相同組み換えを起点として作られるが、この分子メカニズムについては、謎が多く残されている。我々は、これまで、PP4ホスファターゼが、二重鎖切断に重要であることを示したが、我々はさらに、PP4が、酵母Rec114ホモログであるDSB-1タンパク質を脱リン酸化することにより、二重鎖切断を促進し、相同染色体のsynapsisを促進することを見出した。PP4ホスファターゼ変異株では、二重鎖切断が減少するだけでなく、相同染色体間の相同な対合も減っていた。モデル生物線虫では、相同染色体間の相同な対合が、DNA二重鎖切断や相同組み換えに依存しないことが先行研究より知られていることから、これまでPP4ホスファターゼは、DNA二重鎖切断と、染色体対合の両方に、独立して働いていると考えてきた。しかしながら、dsb-1非リン酸化型変異株とPP4の二重変異株の卵母細胞においいて、減数分裂前期の相同染色体対合を解析したところ、dsb-1非リン酸化型変異が、PP4変異株における染色体対合をレスキューすることが明らかになった。DSB-1は、SPO-11の補助因子としてDNA二重鎖切断を制御する因子であり、本来染色体対合には関わらないとされてきた。従って我々は、dsb-1非リン酸化型変異とPP4欠損の二重変異株では、dsb-1変異により増えたDNA二重鎖切断が、相同組み換えを増やすことにより、相同対合をレスキューすると考える。これは、PP4変異株において非相同的に始まった染色体の対合、シナプシスが、DNA二重鎖切断によって正されていることを示唆する。これまで線虫では、相同組み換えに非依存的に染色体が対合すると考えられてきたが、本研究は線虫においても、組み換え依存的に対合を修正できることを新規に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DSB-1の生化学的精製は、線虫の大量培養からの精製と、ヒトHEK培養細胞系からの過剰発現細胞からの精製の2種類を試みたが、DSB-1が非可溶性の分画に入ってしまうことにより非常に難航した。一方、dsb-1非リン酸化型変異株とPP4の二重変異株の解析では、dsb-1変異により増えたDNA二重鎖切断が、相同組み換えを増やすことにより、相同的synapsisをレスキューするという、予想外の知見を得ることができた。この知見は、これまでの線虫では相同染色体の対合、synapsisには相同組み換えが必要ないという考えを一新するものであり、現在論文として投稿中である。全体としては、この2年間パンデミックの影響により、申請者や申請者を補助する実験補佐員の、子供の保育園における休園措置が多くあったことから、不規則に勤務が滞ることがあったため、少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、本研究より、DSB-1のリン酸化が、母体の加齢と共に増加することと、母体の高齢化とともに、卵母細胞における二重鎖切断が減少することを見つけた。DSB-1リン酸化の増加が、高齢化による二重鎖切断の減少の1要因であることが考えられるが、このリン酸化増加の分子基盤は全く謎である。今後は、DSB-1が受ける加齢効果の分子基盤を明らかにすることを目指す。加えて、DSB-1のパラログ遺伝子であるDSB-2の変異株では、顕著な加齢効果が見られる。dsb-2変異株では、若い時は、正常な卵子を産出できるが、加齢が進むと、完全に不妊になる。dsb-2変異株におけるDSB-1のリン酸化比率やタンパク質量は、老若齢の線虫で変わりがなかったことから、DSB-1以外の要素により、dsb-2変異株は加齢効果を受けることが推測される。今後はこの分子基盤も明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年にパンデミックが始まり、休園措置などにより申請者の子供の家庭保育時間が増えたことと、申請者を補佐する実験補佐員の子供の保育園でも休園が増えたことにより、実験計画の遅延があったため。
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