ゲノムDNAに結合したHSF1複合体を網羅的に同定するためにChIP-MS解析を行なった。新たにヒストン修飾に関与するTRRAPを同定し、それがHSP70の熱ストレス誘導を促進することを見出した。この複合体の形成は熱ストレス条件下で誘導され、PLK1によるHSF1-S419のリン酸化に依存していた。このHSF1-TRRAP複合体はp400/TIP60複合体をHSP70プロモーターにリクルートし、TIP60がヒストンH3とH4のアセチル化を導くことが分かった。特にヒストンH3K18アセチル化は、クロマチンリーダーでRINGドメインを持つTRIM33をHSP70プロモーターにリクルートし、それを介してヒストンH2Bをモノユビキチン化してHSP70転写誘導を促進した。興味深いことに、凝集し易いタンパク質の過剰発現はPLK1を介するHSF1-S419のリン酸化を誘導した。逆に、このリン酸化を介するHSF1-TRRAP複合体形成はポリグルタミンタンパク質の凝集体形成を抑制することも分かった。また、がん細胞であるメラノーマ細胞(MeWo細胞)の内在性HSF1をHSF1-S419AあるいはHSF1-S326A変異体に置換すると細胞の増殖抑制が見られた。そこで、HSF1-S326A、HSF1-S419A変異体あるいは両変異体に置換したMeWo細胞をマウスの皮下に移植し、腫瘍形成変化を検討した。HSF1-S419AあるいはHSF1-S326A変異体への置換はMeWo細胞の腫瘍形成を顕著に抑制した。そして、両変異体への置換は、単独変異体と比較して腫瘍形成をさらに抑制することも分かった。以上のことから、HSF1リン酸化を介するエピジェネティック調節がメラノーマ細胞の増殖に関与することが示唆された。
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