研究課題/領域番号 |
19K06493
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
渡邊 孝明 東海大学, 医学部, 講師 (20421365)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DGCR8 / R-loop / 転写共役ヌクレオチド除去修復 / DEAD-boxヘリカーゼ / DHX9 / 紫外線 / タンパク質間相互作用 / 複製ストレス |
研究実績の概要 |
(a)紫外線照射によるR-loop蓄積に対するDGCR8の役割: ヒト骨肉腫細胞U2OS及びヒトケラチノサイトHaCaTを用いてゲノム編集により作成したDGCR8-KO細胞とS153Aノックイン細胞にならいリン酸化状態を模倣できるS153Dノックイン細胞を作成した。これらを用いて、(i)R-loop認識抗体を用いたR-loop定量、(ii)PLA法によるDGCR8、R-loop、TC-NERタンパク質群の間の相互作用解析を行った。その結果、(i)U2OS、HaCaT共に紫外線照射2時間から4時間後にかけてR-loopが蓄積し、KO細胞やS153A細胞ではR-loop蓄積がより増大した。また(ii) R-loopを除去してDNA切断を生じるTC-NER経路のタンパク質(RNAPII、CSA、CSB、UVSSA、USP7)とDGCR8の相互作用が紫外線照射に応じて観察され、S153A細胞で減少する相互作用も見られた。さらにTC-NERタンパク質群同士の相互作用がKO細胞やS153A細胞で減少する例も存在した。 (b)DGCR8によるR-loop制御へのDEAD-boxヘリカーゼの関与: DEAD-boxヘリカーゼDHX9とDDX17がDGCR8と相互作用し、紫外線照射によりその増強が見られた。またS153A細胞では紫外線による相互作用増加が抑えられた。 (c)複製ストレスに対するDGCR8の関与: RNA-seqによりコードRNAとlncRNA両方を検出した結果、紫外線照射による転写産物量の増加がゲノムワイドに見られ、DGCR8-KO細胞やS153A細胞ではさらに顕著になった。これはゲノムワイドなR-loop蓄積を反映していると考えている。 以上のようにDGCR8及びSer153リン酸化が紫外線により蓄積するR-loop除去に重要であることを示す知見が多数得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した項目の大半を実施でき、その多くで仮説を支持する有意義な結果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
(a)DGCR8によるR-loop制御へのDEAD-boxヘリカーゼの関与:R-loop制御因子として注目されるDEAD-boxヘリカーゼのうちDGCR8との相互作用が見られたDEAD-boxヘリカーゼDHX9、DDX17に対するsiRNAを用いてR-loop蓄積量の変化を定量する。またDDX5、DDX21等、他のDEAD-boxヘリカーゼについてもDGCR8との相互作用の検証を続ける。 (b)複製ストレスに対するDGCR8の関与:これまで癌細胞で長鎖非コードRNA(lncRNA)転写がR-loopを伴ってDNA複製を妨げることを見出し、転写と共役したlncRNA分解に関わるDGCR8がR-loop制御を介して複製ストレスを抑える可能性を示唆してきた。2020年度はU2OSおよびKO細胞、S153A細胞を用いて、紫外線照射有無の条件で、ChIP-seqによるR-loop検出、DNA fiber FISHによる複製ストレスの解析を行う。一方、細胞周期に一度だけ染色体が複製されるよう制御するライセンシング因子Cdt1がTC-NERタンパク質に類似した制御を受けることに着目し、S153A細胞等でのDGCR8との相互作用やWestern解析でのCdt1分解の評価を実施する。 以上により新たなR-loop制御の側面、複製ストレスとの明確なリンクを見出すことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を加速しうる消耗品・機器や受託サービスの利用を優先し、人件費・謝金の支出を取りやめた。また限られた時間を研究の進展に最大限充てる判断により学会参加を断念した。以上により計画より支出が減少した。 次年度使用額は今後の研究の推進方策(b)のChIP-seqによるR-loop検出の対象サンプル数、解析手法を当初予定より充実させることに充てる。
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