pH依存的な分裂酵母Ubc13 /Mms2の核酸相互作用残基について、これまでに変異体タンパク質を作成して核酸結合解析を進めてきたが、より明確に核酸結合の違いを理解するため、2021年度では高速AFMを用いた構造解析ならびに動的解析を行なった。通常のマイカ基板上でUbc13/Mms2複合体はヘテロダイマーとして安定に観察できており、これまでに報告されている出芽酵母Ubc13/Mms2複合体のPDB構造とも非常によく似ていた。弱酸性条件下での観察においてもヘテロダイマーとして安定に観察できたが、pHによってタンパク質複合体に構造変化があるかについては、分解能の限界から明らかにはできなかった。構造変化があるとしたら非常に細かい部分、もしくは表面だけに限られるのではないかと考えている。次にUbc13/Mms2-核酸複合体の観察条件についても様々な基板を用いて検討した。DNAやRNAは負電荷を帯びているが、同じく負電荷を帯びているマイカ基板に貼り付けるには、Mg2+やK+イオン存在化で観察する必要がある。しかし、Ubc13/Mms2-核酸の複合体は、高塩濃度下では解離しやすい。また、マイカ基板上への核酸の貼り付きが弱いために核酸の動きが激しくなり分解能も低下した。そこでマイカ基板をAPTES処理することで核酸の貼り付きを強くすることに成功し、分解能も向上した。しかし基板への結合が強いせいでUbc13/Mms2の動きが抑えられ、最終目標のUb鎖伸長反応をリアルタイム観察するには不向きであると判断した。動的観察の基板条件として脂質膜を検討した結果、分解能は低いが、適度なゆらぎの中で酵素反応が進めそうな感触を得た。pHによって脂質膜の状況が変わってしまうので今後も検討が必要である。以上のように、最終目標の1つである高速AFMを用いた動的観察手法の構築に成功した。
|