| 研究課題/領域番号 |
19K06500
|
|---|
| 研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
|---|
研究代表者 |
小瀬 真吾 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90333278)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
| キーワード | 核-細胞質間輸送 / 熱ストレス応答 / タンパク質恒常性維持 / HSP70 / Hikeshi |
|---|
| 研究実績の概要 |
Hikeshiは、熱ストレス時に分子シャペロンHSP70の細胞質から核への移行を担うタンパク質である。しかし、Hikeshiノックアウトマウスや、遺伝性疾患となるヒト点変異Hikeshi遺伝子の解析から、Hikeshiの機能が熱ストレス時に限定されないことが予想された。また、熱ストレス時には、HSP70などの熱ストレスタンパク質(HSP)の遺伝子発現が転写因子HSF1によって誘導されるが、Hikeshiノックアウト細胞では、正常温度下でもこれらの遺伝子発現が亢進していることが判った。HSP70はHSF1に結合して、HSF1の転写活性を抑制することが知られている。正常温度では、HSP70の大部分は細胞質に局在している。しかし、少量のHSP70がHikeshiによる輸送依存的に核に局在している。そのため、Hikeshiは、HSP70の核輸送を通して、恒常的にHSF1の転写活性制御に関与している可能性が考えられた。また、HSP70はタンパク質恒常性維持に重要な役割を持つ分子であることから、Hikeahi機能欠損細胞では、核でのタンパク質構造安定性に異常が見られる可能性が考えられた。本研究では、Hikeshiの機能解析を通して、HSF1活性制御などHSP70の「核内」機能の一端を明らかにすることを目指している。本年度は、核のタンパク質恒常性維持機構におけるHikeshiならびにHikeshiによって核に輸送されるHSP70の機能に着目して解析を行った。その結果、正常温度時においても、核におけるタンパク質安定性やタンパク質恒常性維持機構に、HikeshiとHSP70が重要な機能を持っていることが判った。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Hikeshiノックアウト細胞では、野生型細胞に比べて、核内HSP70量が有意に低下している。Hikeshiノックアウト細胞の核におけるタンパク質安定性を、HSP70の基質として知られているホタルルシフェラーゼを細胞内発現させて解析した。ルシフェラーゼのタンパク質安定性は酵素活性を指標に評価した。核局在化シグナルを付加したルシフェラーゼは、野生型細胞に比べてHikeshiノックアウトHeLa細胞では、酵素活性を速く失い、顕著に不安定化することが判った。Hikeshiもしくは核局在化HSP70を共発現させると、このタンパク質不安定化は抑制された。また、核外移行シグナルを付加したルシフェラーゼによる同様の実験では、Hikeshiノックアウト細胞でのタンパク質不安定化は起こらなかった。
ポリグルタミンタンパク質は、タンパク質凝集体を形成し、様々な神経変性疾患の要因となることが知られている。核内HSP70量の少ないHikeshiノックアウト細胞では、核でのポリグルタミンタンパク質凝集体形成による細胞毒性が野生型細胞よりも強い可能性が考えられた。そこで、核局在化シグナルを付加したポリグルタミンタンパク質を細胞内に発現し、その後のアポトーシス活性を解析した。すると、Hikeshiノックアウト細胞では、野生型細胞よりもカスペース3/4の活性が亢進しており、アポトーシスによる細胞死が誘導されていることが判った。また、このアポトーシス活性は、Hikeshiを共発現すると有意に抑制された。
以上の結果から、正常温度時においても、核におけるタンパク質安定性やタンパク質恒常性維持にHSP70が重要な機能を持っていることが強く示唆された。
|
| 今後の研究の推進方策 |
Hikeshi機能欠損が核におけるタンパク質恒常性維持や品質管理に与える影響を解析する。HSP70が核におけるタンパク質分解にも関与している可能性があるので、熱ストレス時における核タンパク質のユビキチン化状態などを解析する。また、HSP70はコシャペロンであるHSP40ファミリー分子と協同で機能することが知られている。そこでHSP40ファミリーのsiRNAライブラリーなどを使用して、核におけるHSP70とHSP40の機能を探る。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナによる活動自粛期間があり、主に前半期の予算使用額が予定より低下した。また学会参加等の使用予定もかなり少なくなった。本年度におけるプロテオミクスやRNAiスクリーニングに重点的に使用する。
|
