核-細胞質間分子輸送は一般的にImportin betaファミリー分子よって担われている。しかし、熱などの細胞ストレス時には、Importin betaファミリー分子による輸送活性が低下する。一方、分子シャペロンHSP70は、熱ストレス時に細胞質から核への輸送が活性化する。このHSP70のストレス応答性核内輸送を担う運搬体分子がHikeshiである。その後の解析から、HSP70は、正常温度においても、その一部がHikeshiによって核に輸送されることが判った。HSP70は核において、転写因子HSF1の活性制御やタンパク質恒常性維持に重要な働きをすることを明らかにした。これらの結果は、正常温度においても、HSP70の核内機能が重要であることを示すものである。 細胞は熱などのストレスに曝されると、ストレス防御反応の一つとして、細胞質にストレス顆粒が形成される。しかし、Hikeshiノックアウト細胞では、熱ストレス時のストレス顆粒形成が顕著に抑制されていることが判った。HSP70阻害剤であるVER155008などで処理したHikeshiノックアウト細胞では、熱ストレス時のストレス顆粒形成が回復したことから、この現象はHSP70機能と関連していることが示唆された。しかし、別の細胞ストレスである亜ヒ酸で処理すると、Hikeshiノックアウト細胞でも野生型細胞同様にストレス顆粒が形成された。HSP70は、熱ストレス時には細胞質から核に移行するが、亜ヒ酸処理ではその多くが細胞質に局在したままである。野生型細胞に核外移行シグナルを付加したHSP70を過剰発現させても、熱ストレス時のストレス顆粒形成は十分には抑制されなかった。以上のことから、熱ストレス時のストレス顆粒形成にHikeshiによるHSP70の核への輸送とHSP70の核内機能が関与しているという新しい可能性が示唆された。
|