本研究の目的は、マウスとヒトの神経細胞(ニューロン)において、分裂を終えた細胞での機能が未知である維持型DNAメチル化酵素DNMT1に着目し、その機能解明と、精神・発達障害との関連を明示することである。2022年度は、マウスゲノム上におけるDNMT1の結合領域の特徴に関する全ゲノムレベルの解析と、その領域に対するDNMT1のDNAメチル化制御様式の詳細な解明を目指した。解析の結果、DNMT1が神経発達や神経機能の発現に重要な役割を果たす遺伝子群の発現調節領域に結合することが明らかになった。また、末端より4番目のリジン残機がメチル化されたヒストンH3タンパク質(H3K4me1及びH3K4me3)が集積するゲノム領域にDNMT1が特異的に結合することが判明した。これらのことは、DNMT1は神経細胞特異的に活性化するエンハンサーやプロモーター領域に結合することを示唆していた。更に、DNMT1がDNA脱メチル化酵素TET2及びTET3と結合し、それらの酵素によるDNA脱メチル化を阻害することで、メチル化状態の維持に寄与していることを示唆した。加えて、一部の領域ではTET2及びTET3と共同で作用し、DNA脱メチル化にも関与することを示唆した。以上の結果から、ニューロンにおいては、DNMT1はDNAメチル化の維持だけではなく、DNA脱メチル化酵素TETと協調し、DNA脱メチル化にも関与することで、哺乳類の脳機能の調節を担っているということが明らかとなった。このように本研究の遂行により哺乳類のニューロンにおけるDNMT1の新たな機能を提示することができたと考えている。
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