研究課題
本研究ではヒトヘルペスウイルス6(human herpesvirus 6; HHV-6)の宿主受容体認識を司るウイルス糖タンパク質複合体gH/gL/gQ1/gQ2の立体構造と受容体認識機構及び中和抗体による阻害作用の機序の解明に取り組んだ。当該年度ではHHV-6Bに由来するgH/gL/gQ1/gQ2複合体タンパク質を精製し、結晶化およびX線結晶回折測定を行った。これまでの測定により最高分解能3.8Åまでの回折データが得られており、回折データから算出された電子密度の解析ではgH/gL部分を中心に構造情報が得られるなど、立体構造解析を進展させることができた。また精製したHHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体タンパク質と2種の中和抗体あるいは受容体分子CD134との相互作用を表面プラズモン共鳴法で解析し、それぞれのgH/gL/gQ1/gQ2複合体に対する親和性を解析した。その結果、受容体CD134と中和抗体は同程度の親和性を持っている事が明らかとなり、受容体CD134は中和抗体に比べて速い解離会合状態にあることが示された。さらにELISA法によってこれらの中和抗体と受容体CD134との間の競合阻害を調べた結果、gQ1を認識する中和抗体は受容体と競合し、一方でgHに対する抗体は受容体と競合しない事が示された。HHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体タンパク質について負染色電子顕微鏡解析を行った。単粒子再構成法により構築した3次元モデルによって、gH/gLとgQ1/gQ2部分の相対的な位置関係が初めて明らかとなった。また中和抗体結合部位を3次元モデル上で示す事ができ、その感染阻害に繋がる作用機序について知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究ではHHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体の立体構造の解明に向けてX線結晶構造解析を進め、最高分解能を向上させることができた。一部の因子については既に立体構造情報を得る事ができており、立体構造の決定に向けて研究計画は順調に進展していると言える。HHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体と2種の中和抗体あるいは受容体との相互作用解析では、それぞれの親和性を定量的に解析できている。さらに負染色電子顕微鏡解析によって、巨視的な分子構造を解明する事ができ、重要な知見が得られた。各中和抗体結合部位の構造上の違いとELISA実験による受容体との競合の有無の違いから、受容体の結合部位に関しても推定が可能となっている。既にこの成果を国際学術誌PLOS Pathogens誌に投稿し、査読を経て、掲載されることが決定している。またこの解析を通じて、X線結晶構造解析もしくはクライオ電子顕微鏡解析による更なる詳細な立体構造解析に向けての試料調製が可能である事が示され、今後の研究へと繋がる成果が得られた。
今後は引き続きHHV-6B gH/gL/gQ1/gQ2複合体の立体構造の解明に向けてX線結晶構造解析に取組み、原子分解能での構造決定を目指す。特に共同研究者との緊密な連携によってX線結晶構造解析及びクライオ電子顕微鏡解析に着手し、またgH/gL/gQ1/gQ2複合体と中和抗体あるいは受容体との複合体について構造解析に取組む。これまでの負染色電子顕微鏡解析及びX線結晶構造解析の結果から、gH/gL/gQ1/gQ2複合体は構造上複数のコンフォメーションを取り得る事が示唆されている事から、複数のコンフォメーションを分別して解析が可能であるクライオ電子顕微鏡解析法が特に有効であると考えられる。進行中のX線結晶構造解析については最高分解能の更なる向上が課題であるが、経験のある共同研究者の助力を得て、引き続き結晶の改善と多数の回折データを統合する手法を組み合わせる事でデータの質を向上させる。以上の解析によって、gH/gL/gQ1/gQ2複合体の立体構造並びにその中和抗体、受容体との相互作用様式を原子レベルでの情報として明らかとする事で、変異導入実験や分子立体構造に基づく創薬研究へ繋げられる基盤を築き上げる。
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PLoS Pathogens
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