研究課題/領域番号 |
19K06513
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
溝端 知宏 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (50263489)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フォールディング / アミロイド線維 / 天然変性構造 |
研究実績の概要 |
本研究では,大腸菌ペリプラズムにおいて酸変性構造が分子シャペロン機能を発現するHdeAが溶液のpHに依存して可逆的にアミロイド状の線維を形成する興味深い現象に注目し,HdeAが機能的な酸変性状態から不溶性の線維構造,そして再び不活性かつ可溶性の天然状態に遷移する様子を詳細に解析する。実験手法は各種分光学的手法,並びに電子顕微鏡などを利用した線維構造の観察を中心に,更にHdeAの変異体などを作成し野生型との性質比較を行うことで進める。 令和元年度の主要な研究業績として以下のものを挙げる。 1. HdeAのアミロイド線維が形成される構造的要件を突き止めるため,ビオチン化したHdeAやジスルフィド結合を切断した還元型HdeA等を調製し,それらの線維化の様子を観察したところ,これらHdeA誘導体もpHに依存して線維を可逆的に形成することを確認した。各種HdeA誘導体が形成する線維の形態には違いが見られたため,線維形成上の構造的要件を突き止めるためのデータとして今後解析を進める。 2.HdeAの類縁タンパク質であり,ペリプラズムで酸変性したうえで分子シャペロンとして機能するHdeBが,pHに依存して可逆にアミロイド様線維を形成することを確認した。アミノ酸配列上はこの2種の類縁タンパク質は相同性が比較的低い為,HdeBがHdeAと似た分子機構でpHに依存した線維化を引き起こす事は詳細な線維化の要件を突き止めるための重要な知見である。以後の研究では「可逆線維化」という現象の普遍性についての考察を展開するためHdeAとHdeBの線維化反応を比較して類似点と相違点の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では研究2年度目以降にHdeA類縁体のHdeBに関しpHに依存した線維の可逆形成を検証する予定であったが,早期にHdeBの線維化反応を確認することができた。このため,令和2年度以降はHdeAとHdeBの線維化反応を対比させて両者に共通する分子メカニズムについて考察する実験を進めることが可能となり,ペリプラズムで機能する分子シャペロンの動的な構造と機能の相関,そしてその構造・機能相関における凝集と線維化の意味を,当初予定していたよりも一歩踏み込んで探求する機会を得たと感じているため。
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今後の研究の推進方策 |
当初令和元年度の研究目標として設定していたHdeAの線維化の可逆性,そして機能的変性状態との関連性を解明するエフォートは未だ進行中であるため,令和2年度目以降は特にHdeAやHdeBの性質を改変する変異体の作成,並びにその変異体の評価を中心とした実験をより積極的に進める。一方で,HdeBがHdeAと同様,線維を形成しその線維がpHに依存して可逆的に構造を変化させる結果を受けて,今後はHdeAとHdeB双方の性質を比較し,両者に共通の特徴を突き止めることでタンパク質線維化に関するより本質的な知見を獲得すること,そして「可逆な線維化反応」という,HdeAとHdeBが見せる比較的ユニークな特性を可能にしている構造的な特性を突き止めるべく,実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度に研究に用いる予定であったHdeAの変異体を作成するために必要である遺伝子操作用試薬が当初予定よりも消費が少なかったため余剰の予算が生じた。しかし,令和2年度以降ではHdeA,そして類縁タンパク質のHdeBについても遺伝子操作による変異体の作成・解析をより進める予定であるので,このし年度使用額についてはこのために必要となる試薬・消耗品の購入に充てる予定である。
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