研究課題
リウマトイド因子(RF)はIgGのFc領域に結合する自己抗体である。慢性炎症性疾患やB細胞リンパ腫においては、ある決まった生殖系列遺伝子の組み合わせからなるRFが頻出することが知られている。本研究では、改変体作製、結晶構造解析、相互作用解析を組み合わせることで、ステレオタイプRFの分子認識の普遍的な特徴を明らかにすることを目的とする。最も高頻度で出現するIGHV1-69生殖系列遺伝子由来のRFの1つであるYES8cについて結晶構造をすでに明らかにしている。これまではYES8cのFab断片を用いて構造解析を行ってきたが、Fabの大量調製は容易ではなかった。今年度はYES8cの改変体を効率よく作製するために、大腸菌での大量調製が容易でかつ安定性の高いFv-claspの大量調製系を構築した。まずFv-clasp形成に必要なSARAHドメインを融合したYES8cのH鎖とL鎖について、大腸菌を用いた発現系構築を行い、H鎖とL鎖の両方について封入体での大量調製に成功した。次にこれら封入体を可溶化して巻き戻しを行った。巻き戻し条件を検討することで、収率約2.2%、1度の巻き戻しでおよそ1mgのFv-claspを調製することができた。高親和性型のIGHV1-69由来ステレオタイプRF(RF-TS1、M11)について、Fab断片の大腸菌分泌発現系、ならびにFv-claspの発現系の構築を試みた。Fab断片の分泌発現系では、大腸菌株と培養条件の検討を行ったが、精製後の収量が培地1リットル当たり0.01mg程度であり、解析には不十分な量であった。Fv-claspの発現系においては、L鎖の封入体の大量調製は容易であったが、H鎖がほとんど発現しなかった。そこでH鎖のN末端から10残基程度の領域についてコドンを最適化したところ、封入体での大量調製が可能となった。
2: おおむね順調に進展している
発現系の簡素化のために行った、大腸菌を用いたYES8c Fab断片の分泌発現系においては発現量が十分でなかったが、Fv-claspの調製系で大量調製に成功したことは、今後の改変体の解析に対して大きな収穫であった。高親和性RFであるRF-TS1についてはFab断片の大腸菌分泌発現系では収量が少なかったが、Fv-claspの様式で発現させることで大量調製が見込めるのではないかと考えられる。
YES8c-Fv-claspについて大腸菌を用いた大量発現系の構築に成功した。今後はこの調製系を用いて、IGHV1-69由来ステレオタイプRFのCDR-H3と分子認識の関係を明らかにするため、CDR-H3の長さを変えた種々の改変体の調製を行い、Fcとの複合体の結晶構造解析と表面プラスモン共鳴法などを用いた相互作用解析を行う。また、高親和性型のIGHV1-69由来ステレオタイプRF(RF-TS1、M11)について、Fv-claspでの大量発現系の構築を進める。さらには他の生殖系列由来ステレオタイプRF(IGHV3-7由来とIGHV4-59由来のRF)についても同様にFv-claspの様式で大量調製系の構築を進める。
おおよそ計画通りに予算を使用できたのではないかと考えている。差額については次年度の試薬および消耗品に充てる。
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