研究課題/領域番号 |
19K06514
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
白石 充典 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 准教授 (00380527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リウマトイド因子 / 自己抗体 / 結晶構造解析 / 分子認識 |
研究実績の概要 |
リウマトイド因子(RF)はIgGのFc領域に結合する自己抗体である。本研究では,慢性炎症性疾患やB細胞リンパ腫において頻出するステレオタイプRFについて、結晶構造解析や相互作用解析により、その分子認識の普遍的な特徴を明らかにすることを目的とする。 昨年度に続き,IGHV1-69生殖系列遺伝子由来のRFについて研究を行なった。本研究では,試料調製や構造解析を効率的に進めるために,リウマトイド因子の可変領域(VH, VL)のC末端にSARAHドメインを融合したFv-claspを作製する。YES8c Fv-claspについては,大腸菌を用いて封入体を大量調製し,巻き戻すことで調製した。巻き戻し条件を最適化することで、最終精製後の収量を5倍程度向上させた。表面プラスモン共鳴(SPR)法により,調製したYES8c Fv-claspとヒトIgG1の相互作用解析を行ったところ,YES8c Fabと同等の親和性を確認することができた。また,過去の文献により高親和性型RFと報告されているRF-TS1のFv-claspについて、巻き戻しによる大量調製に成功した。RF-TS1 Fv-claspについてSPR法による相互作用解析を行ったところ,ヒトIgG1に対する結合能を有していなかった。現在YES8cならびにRF-TS1のFv-claspについて,結晶構造解析に向けた結晶化を行い,初期スクリーニングの段階で微結晶を得ている。 一方でRFのFab断片の大腸菌分泌発現系による調製系の確立も試みている。昨年度はRF-TS1のFab断片について調製系の確立を試みたが,精製後の収量が培地1リットル当たり0.01mg程度と少ないことが問題であった。今年度はH鎖のN末端付近のコドンの最適化を行い発現を試みたが,大幅な向上には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染拡大により,2020年度は,大学の閉鎖や研究室活動を1/2程度に制限されるなどの理由で,当初の計画よりもやや遅れることとなった。しかしこのような状況ではあったが,着実に結果は出ている。リウマトイド因子YES8c については,Fv-claspの形でFabと同様の結合親和性を有していたことは大きな進歩であった。また,まだ微結晶ではあるがFv-claspとFcの複合体の結晶も得られている。一方でRF-TS1のFv-claspは結合親和性を有していなかったため,原因の究明が必要である。RF-TS1はFabのかたちで調製し,結合能を確認する必要があるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
YES8c Fv-claspについてヒトIgG1-Fcとの相互作用が確認できたため,Fcとの複合体の結晶構造解析を進める。またIGHV1-69由来ステレオタイプRFのCDR-H3と分子認識の関係を明らかにするため、CDR-H3の長さを変えた種々の改変体の調製を行い、Fcとの複合体の結晶構造解析と表面プラスモン共鳴法などを用いた相互作用解析を行う。RF-TS1 Fv-claspについては,単独での結晶構造解析を行い,Fcとの相互作用が見られなかった原因を究明する。またYES8cとRF-TS1について,大腸菌を利用したFabの大量調製系の確立を行う。 また、高親和性型のIGHV1-69由来ステレオタイプRF(RF-SJ1、M11)について、Fv-claspの形での大量発現系の構築を進め,相互作用解析,結晶構造解析を行う。さらに余裕があれば,他の生殖系列由来ステレオタイプRF(IGHV3-7由来とIGHV4-59由来のRF)についても同様にFv-claspの様式で大量調製系の構築を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおよそ計画通りに予算を使用できたのではないかと考えている。差額については次年度の試薬および消耗品に充てる。
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