ゲル濾過クロマトグラフィー(Size-Exclusion Chromatography)と組み合わせたタンパク質溶液試料の小角X線散乱(Small-Angle X-ray Scattering)法(SEC-SAXS)で取得されたデータの全自動解析を実現する為のソフトウェア開発を進めている。SEC-SAXS連続データ測定中のリアルタイム処理を実現しているソフトウェアSAnglerに関しては、今年度はSPring-8の新しいSAXSビームラインBL38B1に対応するために設定ファイルの更新を行った。また、蛋白質の折畳み状態を評価する無次元クラツキー解析機能追加した。一方、SEC-SAXS/紫外可視分光の連続データ(行列データ)の全自動処理を可能とするソフトウェアMOLASSに関しては、今年度は(1)ベースライン補正アルゴリズムのさらなる改良(2)ピーク自動認識アルゴリズムの改良(3)試料セル構造の変更に伴う吸光度→濃度変換ファクターの調整(4)幾つかのバグ修正などを実施した。これらの更新を適用してVer. 1.0.11まで公開した。また、MOLASSのVersion1.0系統に関して、その仕様やアルゴリズムと適用例について解説する論文をBiophysics and Physicobiology誌に発表した。 研究期間全体を通して、SAngler及びMOLASSの開発により、測定された多量の連続データを、初心者からエキスパートまでユーザーフレンドリーに、かつ適切に処理することが可能になった。その結果、これまでは困難であった多分散系の溶液試料から、標的の散乱分子由来のSAXS曲線を高精度に取得可能になり、構造解析に成功できるようになった。海外でSEC-SAXS用の解析ソフトウェアは幾つか公開されているが、修正ガウス関数による溶出曲線の全自動モデリングや線形代数の技法による解析アルゴリズムはMOLASS独自であり、同じレベルで解析できるソフトウェアは現状存在していない。本ソフトウェアを活用した成果論文も幾つか公開し、当初目的を達成できたと考える。
|