研究実績の概要 |
核酸合成を担う酵素は全て5′-3′方向に塩基伸長するというのは長らく定説であったが、逆向きの3′-5′方向へ塩基伸長する酵素Thg1が発見され注目を浴びている。しかし、なぜThg1には逆方向の塩基伸長活性が現存するのか、その生物学的意義の解明には至っていない。最近Thg1がtRNA以外の多様なRNAを認識することが示唆されているが、未だ生体内RNAは同定されておらず、Thg1がどのように多様なRNAを認識するか不明である。本研究では、ランダムRNAライブラリーからThg1の基質となりうる新規RNAを探索し、Thg1との複合体の構造解析を行うことで、Thg1のRNA認識における多様性を解明することを目的としている。 2020年度は、ヒトThg1のtRNAHis成熟におけるヌクレオチド認識機構を解析し、これまで研究されてきた真菌由来Thg1とは異なり、2種類のヌクレオチド認識機構を有することを明らかにし、論文発表した (Nakamura A., et. al., (2021), RNA, in press)。この内、ヒトThg1に特有なU:A塩基対形成によって生成されるtRNA断片は、乳がん細胞等でpiRNAとして機能することが報告されており、逆方向の塩基伸長活性の新たな生体内機能を提唱した。さらに、これまでに報告されていないヒトThg1とミトコンドリアtRNAとの共結晶化を行い、新たなヒトThg1の構造解析にも成功し、ヒトThg1のC末端ドメインとtRNAの結合がヌクレオチド認識にも関与することが示唆された。
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