研究実績の概要 |
核酸合成を担う酵素は全て5′-3′方向に塩基伸長するというのは長らく定説であったが、逆向きの3′-5′方向へ塩基伸長する酵素Thg1が発見され注目を浴びて いる。しかし、なぜThg1には逆方向の塩基伸長活性が現存するのか、その生物学的意義の解明には至っていない。最近Thg1がtRNA以外の多様なRNAを認識するこ とが示唆されているが、未だ生体内RNAは同定されておらず、Thg1がどのように多様なRNAを認識するか不明である。本研究では、ヒトThg1のtRNAHis成熟におけるヌクレオチド認識機構を解析し、これまで研究されてきた真菌由来Thg1とは異なり、RNA認識に応じて2種類のヌクレオチド認識機構を有することを明らかにした。この内、ヒトThg1に特有なU:A塩基対形成によって生成される tRNA断片は、乳がん細胞等でpiRNAとして機能することが報告されており、逆方向の塩基伸長活性の新たな生体内機能を提唱した。さらに、これまでに報告され ていないヒトThg1とミトコンドリアtRNAとの共結晶化を行い、新たなヒトThg1の構造解析にも成功し、ヒトThg1のC末端ドメインとtRNAの結合がヌクレオチド認識にも関与することが示唆された。上記ヒトThg1のRNA認識とヌクレオチド認識の関連性をまとめ、論文発表した(Nakamura A., et. al., (2021), RNA, 27(6) 665-675)。さらに、シロイヌナズナが有する2種類のThg1(AtThg1-1、AtThg1-2)の機能解析に取り組み、大腸菌発現系を用いてAtThg1-1を大量調製することに成功している。大量調製したAtThg1-1とin vitro転写にて調製したtRNAHisと共結晶化を実施したが、現在まで初期結晶は得られていない。
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