研究課題
哺乳動物細胞の小胞体におけるタンパク質ジスルフィド結合の形成は、約20種類のPDIファミリータンパク質によって触媒される。我々は過去に、精製タンパク質を用いた生化学実験により、PDIファミリー酵素の中でも特にP5が基質に素早くジスルフィド結合を導入する能力を有することを見出したが(Sato et al., Sci. Rep. 2013; Kojima, Okumura et al., Structure 2014)、その作用機序は不明であった。また、P5は3つのチオレドキシン様ドメインa0,a,bで構成されるが、全長構造は未だ解かれていなかった。そこで、P5全長の構造を決定するため、X線小角散乱による構造解析を行った。その結果、P5は各ドメイン間がフレキシブルなリンカーで結ばれた新規な構造であることがわかった。さらに、各種P5変異体を作製し、カルシウム結合領域を等温滴定型カロリメトリ測定により決定した。カルシウム結合の有無によって、P5は酸化的フォールディング触媒に影響を及ぼさないが、シャペロン能は調節されることを見出した。一方で、PDIはカルシウムに応答して、酸化的フォールディング触媒能およびシャペロン能の調節があることをわかった。今後、P5のシャペロン能、酸化的フォールディングにおける触媒能、小胞体ストレス応答因子であるIRE1の機能制御能について明らかにするため、細胞生物学的実験を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
現在、P5の新規構造について、論文投稿までこぎつけている。また、本課題から派生して、PDIファミリーによる小胞体ストレス応答因子の制御の新たな発見まで到達しており、当初の予定を大幅に上回る結果を得つつある。今後本課題を基盤とした論文投稿を進めるだけでなく、新たに発見した複数の成果を各々論文化することを次年度の目標とし、計画以上に進展している評価とした。
P5の新規構造と生化学的検証について、論文化を目指す。一方で、これまでに得られた知見、すなわち、P5による小胞体ストレス応答因子IRE1の機能メカニズムについて、細胞生物学的見地から検証するため、各種アッセイ系を構築しつつあり、今後共焦点顕微鏡を用いた細胞内局在などの新規アプローチも含め、当初の計画よりも大幅に上回る学際的検証を次年度以降進める。
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