研究課題/領域番号 |
19K06522
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
滝沢 由政 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (00434291)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | クロマチン / ヌクレオソーム / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
クロマチンは、ヌクレオソームと呼ばれるヒストンとDNAの複合体を最小単位として核内に高度に収納されている。滝沢は、結晶化が困難な試料溶液をグリッド上で急速凍結し観察することのできるクライオ電顕鏡解析を使い、ヘテロクロマチン基本構造やネイティブDNA配列を含むヌクレオソームの3次元構造を明らかにしてきた。クライオ電子顕微鏡解析は、近年様々な技術革新により、画像取得やコンピュータ解析の自動化、高速化が行われてきたが、急速凍結試料グリッド作製には、複合体精製の難しさや凍結条件の最適化など多くの課題が残されている。本研究では、クライオ電子顕微鏡を用いたクロマチン構造解析における急速凍結試料作製の効率化、高品質化および今まで構造解析が難しかったクロマチン複合体や高次クロマチンの可視化を実現するため、クロマチン基盤膜グリッドの作製を目的としている。 2019年度は、クロマチン基盤膜グリッドに固定するための様々なクロマチンの作製および基盤膜グリッドとして、ストレプトアビジンモノレイヤーグリッドの作製を試みた。成果として、高次クロマチン構造の理解に重要な、セントロメア特異的H3ヒストンバリアントであるCENP-Aヌクレオソームを含むトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡解析に成功した (Takizawa et al, Structure, 2020)。また、ストレプトアビジンモノレイヤーグリッドの作製に関して、グリッド上にストレプトアビジンモノレイヤー結晶を形成させ、そこへビオチン化DNAを持つヌクレオソームが結合していることをクライオ電子顕微鏡で観察することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、クロマチン基盤膜グリッドに固定するための多様なクロマチンの作製を行った。特に、高次クロマチン構造の理解に重要なトリヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡解析に成功した (Takizawa et al, Structure, 2020)。解析を行った試料は、全て通常型のヒストンH3を含むH3ヌクレオソームで構成されるトリヌクレオソームおよびセントロメア特異的H3ヒストンバリアントを含むCENP-Aヌクレオソームが真ん中に入ったトリヌクレオソームを作製した。クライオ電子顕微鏡単粒子解析の結果、CENP-Aヌクレオソームが真ん中に入ったトリヌクレオソームは、全て通常型であるH3ヌクレオソームで構成されているトリヌクレオソームと比べて、CENP-Aヌクレオソームの配向が異なっていることが明らかとなった。トリヌクレオソームを基盤膜グリッドに固定することができれば、そこに様々なクロマチン結合因子をグリッド上で結合させることができ、高次クロマチン構造の理解が進むことが期待される。また、2019年度は、基盤膜グリッドとして、ストレプトアビジンモノレイヤーを用いたグリッドの作製を試みた。ストレプトアビジンモノレイヤーグリッドの作製を行った結果、クライオ電子顕微鏡用グリッドの上にストレプトアビジンのモノレイヤー結晶を再現性よく形成させることができた。加えて、ストレプトアビジンモノレイヤーグリッド上にビオチン化DNAを持つヌクレオソームを結合させ、クライオ電子顕微鏡で観察することにも成功した。ただし、ストレプトアビジンモノレイヤーグリッド上でヌクレオソームを急速凍結させたときの氷の厚さや再現性にはまだ検討の余地が残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
クロマチン基盤膜グリッドに結合させるための、モノ、ジ、トリヌクレオソームに加えて様々なDNA配列を含むヌクレオソームを精製する。また、ヌクレオソームとその結合因子の精製も合わせて行う。ヌクレオソームとその複合体を精製後、クライオ電子顕微鏡単粒子解析による立体構造解析を引き続き行う。得られた立体構造をもとに、クロマチン基盤膜グリッドに結合させるためのヌクレオソームの選定を行う予定である。また、クロマチン基盤膜グリッドに結合させるためのヌクレオソームは、ビオチン化DNAまたはタンパク質タグを付加したヒストンを用い、基盤膜グリッドへ効率良く結合できる条件を検討する。基盤膜グリッドは、2019年度に作製したストレプトアビジンモノレイヤーグリッドを中心に検討する。2019年度、ストレプトアビジンモノレイヤーグリッドの作製に関して、グリッド上にストレプトアビジンモノレイヤー結晶が形成されており、そこへビオチン化DNAを持つヌクレオソームが結合していることをクライオ電子顕微鏡で観察している。今後は、ヌクレオソームを結合させたグリッドの非晶質の氷の状態を改善するため、急速凍結条件を試料濃度、バッファー条件、急速凍結装置の条件等の検討を行う予定である。試料の最適化された急速凍結条件が決まり次第、クライオ電子顕微鏡での大量画像取得およびコンピュータによる単粒子解析を行い立体構造を得ることにより、基盤膜グリッド上でのヌクレオソームの形状を評価する。
|