研究課題/領域番号 |
19K06525
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
島 扶美 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 教授 (60335445)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子動画 / がん遺伝子産物 / X線自由電子レーザー |
研究実績の概要 |
① NPEcagedGTP型H-Rasの微結晶を用いたSACLAでの光照射実験(SACLA課題番号:2019B8049)のデータを詳細に解析した結果、cagedの離脱反応の後、光照射後48msで天然GTP結合型RasのState1構造が生成されることが確認できた。またState 1構造に移行するにあたり、RasのSwitch IループがGTPに接近する構造変化も捕捉された。天然型(GTP結合型)State 1構造において、Rasの分子表面には2つのSwitch領域に囲まれた薬剤結合ポケット領域が存在する可能性が示唆された。 ② NPEcaged-GTP型H-Rasの光照射HSQC_NMR測定とアミノ酸残基ごとのkinetics解析により、GTPの加水分解反応(GDP生成反応)において、2つのSwitch領域の構造変化に先駆けて、当該領域に隣接するα3ヘリックスとP-loopの構造変化が起こることが確認できた。また、GTPの加水分解過程においてRasはState 1構造を経由した後GDP型になることが明らかになった。 ③ GTP加水分解反応に際してState 2構造を経由するかどうかについては、構造変化の速度が溶液中と比較して緩やかになることが予想される、NPEcagedGTP型H-Ras微結晶を用いた光照射・固体31P_ NMR測定が必要と考えらえたため、当該測定を実施したことろ、cage離脱後State 1>State 2>GDP型への構造変化を示唆する実験データが得られた。 ④ 以上の研究成果を2020.12の第43回日本分子生物学会にて発表した(Saeki et al.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「GTP型RasのSACLAおよびNMRによるポケット開閉メカニズムの解明」に係る実験については当初の予定通り、SACLA/SPring-8ならびに溶液・固体NMRを組み合わせることで一定の成果が得られた。固体NMRなど一部のデータについては現在解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
GTP加水分解に係る遅いフェーズについては、当初予定していたSACLAでの2液混合法(ベルトコンベア式インジェクター(理研ならびにJASRI・熊坂氏との共同)により微結晶を送液)による光照射実験ではなく、固体NMRのデータを詳細に解析した上で、構造変化の捕捉に適したなタイムポイントを割り出した上で、SS-ROXなどの測定手法を活用し、分子動画を作成することが妥当と考えられた。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はCOVID19の影響で、研究情報収集のための出張旅費の支出がなくなった点、試薬の流通・購入に支障が生じて実験計画上購入予定であった一部の試薬・実験材料の入手が困難となったことなどの理由で、予算の余剰が生じる結果となった。 代替材料使用により、研究の進捗自体に遅延は認められなかったが、2021年度開始とともに、入手予定であった実験材料の購入を急ぎ、再試験により前年度の実験結果の妥当性を担保する予定である。
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