①NPEcagedGTP型H-Rasの微結晶を用いたSACLAでの光照射実験のデータを詳細に解析した結果、cagedの離脱反応の後、15ms以内に天然型となったGTPの位置移動とGTP周辺のアミノ酸残基の構造変化を支持する電子密度の経時変化が確認された。その後、光照射後48msに、RasのSwitch IループがGTPに接近して天然GTP結合型RasのState1構造が生成される、というRasのGTP加水分解の前駆過程における構造変化が解明された。天然GTP結合型State 1構造において、Rasの分子表面には2つのSwitch領域に挟まれた薬剤結合ポケット領域が形成される点については、前年度と解釈の変更はなかった。 ②光照射HSQC_NMR測定等より、GTPの加水分解反応(GDP生成反応)により導き出された、Switch領域に隣接するα3ヘリックスとP-loopの構造変化については、NPEcagedGTP型H-Rasの微結晶を用いた光照射下31P_固体NMR測定とその詳細な解析を前年度に引き続き実施した結果、cage離脱後State 1>State 2>GDP型への構造変化を取ることが確定され、なおかつ、SACLAでは解明困難なState 1>State 2>GDP型に至るプロセスでフォーカスすべき複数のタイムポイントと測定・解析手法(SS/ROX法)が確定した。 ③時分割光照射実験全般を通じた解析の結果、State1構造生成に至るより高精度な分子動画作成を実現するためには、Rasの基質としては、NPEcagedGTPに比して量子収率がより良好な他のcagedGTPの使用の必要性が明らかになった。 ④以上の研究成果を、第94回日本生化学会大会 2021年11月5日(Saeki et al.ポスター/オンデマンド)(Shima et al.口頭発表)において発表した。
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