研究実績の概要 |
本研究では新規がん免疫創薬の標的として近年注目されている脂質キナーゼDGKαの触媒機構と複数の制御領域(RVH, EF-hand, C1ドメイン)による分子内活性化制御機構を構造生物学・物理化学・生化学的手法により多角的かつ詳細に解析し,DGKαの構造基盤を明らかにすることを目的とした。
最終年度は、N末端制御ドメインの構造・相互作用解析を継続しつつ、DGKα全長のクライオ電顕解析に取り組んだ。Ca2+結合能をもつことが新たに見出されたN末端のRVHドメインは、Ca2+結合による構造変化は見られなかったが、Ca2+の存在・非存在下で構造安定性に顕著な差があることを見出した。さらに溶液NMR解析により、RVH、EFドメインともに、それぞれ単体で存在する場合とRVH-EFとして連結された場合に15N-1H HSQCのピークが大幅に変化したことから、複数ドメイン酵素DGKのなかでは互いに相互作用すること、さらにCa2+の結合によりその相互作用状態が変化することが示唆された。これらの結果については、学会発表(第94回生化学会年会)を行い、原著論文を投稿済みである。
DGKα全長のクライオ電顕解析では、まずDGKαと抗DGKαモノクローナル抗体Fab(DaMab-Fab)との複合体の調製を行なった。DaMab-Fabをパパイン消化により調製し、DGKαとの親和性を表面プラズモン共鳴により確認した。続いて、DGKα・DaMab-Fab複合体をゲル濾過クロマトグラフィーの単一ピークとして調製した。複合体を凍結し、クライオ電子顕微鏡で観察した。単粒子解析を試みたが、複合体の分布が少なく、構造決定には至らなかった。構造未知のDGKαの構造解析に向けて、試料調製は順調に進み、新たにクライオ電子顕微鏡での構造解析に取りかかることができたが、今後更なる試料調製・凍結試料作成条件の検討が必要である。
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