研究課題/領域番号 |
19K06528
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
齊藤 貴士 北海道科学大学, 薬学部, 准教授 (00432914)
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研究分担者 |
木股 洋子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (60255429)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質 / 相互作用 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
マラリア感染症はエイズ、結核と並んで世界の3大感染症に挙げられ、早急に人類が克服すべき疾病である。発展途上国を中心に、毎年およそ3億人が感染し、年間約50万人の命を奪っている。近年、クロロキンなどの 市販されている抗マラリア薬に耐性を持つマラリア原虫が蔓延して問題となっていること から、新たな作用機序での薬の開発が急務となっており、日本の貢献が期待されている。マラリア感染症を引き起こすマラリア原虫はアピコンプレックス門に属し、細胞内に取り込んだ紅色植物の葉緑体が退化したと考えられている四重包膜に囲まれた二次共生色素体:アピコプラストを持つ。四重包膜のうち、外側は小胞体膜と共生体の細胞膜由来、内側の二膜は紅色植物由来と考えられている。アピコプラストは脂肪酸などの生合成反応の場として機能しておりマラリア原虫の生存に必須であり、新たな創薬ターゲットとして注目されている。アピコプラストは光合成能力は失われており、独自のゲノムDNAを持っているにもかかわらず一部の遺伝子しか残していない。すなわちアピコプラストで使用されるタンパク質 (アピコプラストト蛋白質)の大部分は核ゲノムDNAにコードされている。よって、アピコプラスト蛋白質は小胞体で合成された後、本研究で研究対象とするTic22タンパク質など様々な膜透過関連タンパク質の助けをかりて四つの膜を通過しアピコプラスト内へと運ばれていく。これらマラリア原虫アピコプラストのタンパク質の構造生物学的研究は代表者らの報告 をはじめ近年増加傾向にあるものの、アピコプラスト蛋白質間の相互作用ネットワークについては未解明の部分がまだ多く残っている。そこで本研究では、アピコプラスト内へと輸送されるタンパク質と膜透過関連タンパク質Tic22タンパク質との相互作用の解明を目指し、2019年度は研究遂行のための基盤整備をいこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Tic22によるアピコプラストタンパク質の分子認識メカニズムを解明するために、Tic22タンパク質によるアピコプラスト内へと輸送される電子伝達タンパク質フェレドキシンに対する分子認識メカニズムの解明を目指した。アピコプラストへと輸送されるタンパク質は膜透過の際、アンフォールド状態を維持していると考えられるため、本研究ではアピコプラスト内へと輸送されるフェレドキシンをアンフォールド状態に保つため[2Fe-2S]クラスターを除去しapo-フェレドキシンとして実験に用いた。相互作用メカニズムの解明する手法には、大阪大学蛋白質研究所に設置された超高磁場NMRスペクトル装置および、研究代表者の所属期間に導入されたBio-Layer Interferometry(BLI)法を用いる予定である。研究に用いるフェレキシンは共同研究者が作成したサンプルを用いた。2019年度は、超高磁場NMR法による解析を目指したTic22タンパク質の安定同位体ラベルか技術の構築をおこなった。この過程で2019年度に導入したマイクロ冷却遠心機を用いている。これにより所属研究機関においてもタンパク質の安定同位体ラベルを安定して得ることができる環境を整えた。またBLI法については、センサーチップへのTic22タンパク質の固定化手法として、これまでに用いてきたGST-Tagによる固定化に加え、タンパク質のビオチン化による固定化法を行うためTic22のビオチン化を実施した。ビオチン化を行うタンパク質の生成においても2019年度に導入したマイクロ冷却速遠心機を使用している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究により、超高磁場NMRスペクトルとB L I法によるTic22とapo-フェレドキシンとの相互作用解析について準備が整った。しかし、超高磁場NMRスペクトルによる相互作用解析においてはより詳細な結果を得るために今後、常磁性プローブを用いた解析を用いることを検討している。さらに、アピコプラスト取り巻く膜とTic22との相互作用についても常磁性プローブを用いた解析を展開していくことも検討している。そこで今後は常磁性プローブを解析に用いる技術の開発に取り組んでいく。この技術とBLI法から得られる速度論的パラメータの情報を組み合わせることで、Tic22とアピコプラストタンパク質との相互作用やフェレドキシンとフェレドキシン依存性酸化還元酵素との電子伝達相互作用など、アピコプラスト内で起きている様々なタンパク質間相互作用ネットワークの解明に取り組んでいく予定である。 アピコプラストはマラリア原虫をはじめとするアピコンプレックス門のみが持つ葉緑体由来のオルガネラであり、他の生物種では見ることのできない分子間相互作用メカニズムが用いられている可能性がある。すなわち、本研究で目指しているアピコプラスト内のタンパク質間ネットワークの解明は、ヒトに対し副作用の少ない新規抗マラリア薬の開発に貴重な情報を提供できる。しかし、コロナウイルスの影響による研究の遅れが今後の懸念材料となっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の終盤において、コロナウイルスによる影響が出始め、指導しながら共同で研究を遂行している卒業研究生が研究に参加できなくなった。このため予定していた消耗品および遺伝子の発注が2020年度となる。
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