研究課題/領域番号 |
19K06530
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
北原 亮 立命館大学, 薬学部, 教授 (70512284)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概日時計 / シアノバクテリア / 圧力 |
研究実績の概要 |
概日周期は、細胞や個体で見られ、細胞分裂、行動や睡眠など重要な生命活動を制御している。本研究では、シアノバクテリアおよびヒトの概日時計の圧力応答について研究し、概日周期(システム、個体)と周期長を制御する酵素活性の圧力依存性を解明する。シアノバクテリアについては、KaiCリン酸化サイクルの圧力依存性、KaiC-ATPase活性の圧力依存性、in vivoでの周期長の圧力依存性について研究する。周期長が圧力で変化する原因について解明するとともに、周期長決定因子であるKaiCの構造揺らぎと機能発現の関係性について検討する。ヒトについては、カゼインキナーゼ1δのリン酸化活性の圧力依存性について研究する。シアノバクテリアの概日時計は、KaiA、KaiB、KaiCとATPを混合することにより試験管内で再構成できる唯一の系である。KaiCのS431とT432が、S/T→S/pT→pS/pT→pS/T→S/Tの順でリン酸化と脱リン酸化を繰り返すことによりリン酸化レベルが振動する(リン酸化サイクル)。本研究で、シアノバクテリアのリン酸化サイクルが、in vitroにおいて1気圧の22時間から200気圧で14時間まで可逆的に早まるという温度では得られない新しい現象を見出し、さらにその原因は周期長決定因子であるKaiCのATPase活性が加圧により増加することであると突き止めた(Kitahara et al. Sci. Rep. 2019)。この結果は、ATPase活性が負の活性化体積(dV≠)を持つことを意味する。KaiCが体積揺らぎ(収縮)とともに水分子や触媒残基がコンパクトに集まった遷移状態を形成した時に化学反応が生じるという仮説に至った。ヒトカゼインキナーゼ1δの大腸菌を用いた培養と精製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、シアノバクテリアのKaiA, KaiB, KaiCの3つのタンパク質の大腸菌と精製カラムを用いた準備が必要となる。リン酸化サイクルの周期長の測定では、3時間毎のサンプリングが必要となるが、研究協力者である大学院生と協力して予定通り行うことができた。タンパク質試料をインキュベートするための耐圧容器を2台有するため、複数の圧力や温度実験を同時に行うことにより効果的に研究を進めることができた。これまでに200気圧までの成果は学術誌に報告済みであるが、さらに500気圧までの実験結果や周期長変異体の実験結果を得ており、学術誌への投稿準備中である。 シアノバクテリア概日時計をin vivoで観測するために2019年度に高圧顕微鏡を購入した。シアノバクテリアは光合成細菌であるため、圧力シールされた高圧顕微鏡の中でどのように光を取り込むか、新鮮な培養液を取り込むかという課題が残っている。2020年度には、ルシフェラーゼタンパク質を導入したシアノバクテリアを用いて、上記課題を解決した上で高圧顕微鏡下での生物発光を用いた概日時計の観測を目指す。 カゼインキナーゼ1δにについては、大腸菌の培養と液体クロマトグラフィーを用いた精製に成功した。またリン酸化酵素活性の評価に必要な基質ペプチドをユビキチン融合タンパク質として大腸菌を用いて作製することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
シアノバクテリアの概日時計研究について、200気圧までの成果を報告済みである。2019年度の研究から、野生型KaiCを用いた場合、リン酸化レベルの振動(リン酸化サイクル)は加圧と共に周期長は短くなるが、500気圧でほぼ消失する。これまでに長周期、短周期を示すKaiCが報告されているため、それら周期長変異体についても振動が観測される範囲で研究を行う。周期長は、KaiCのATP加水分解活性と相関することから、全ての実験条件についてATP加水分解活性も調査する。周期長やATP加水分解活性が25℃~35℃で温度にはほとんど依存しない(温度補償性)が、圧力下で温度補償性はどうなるか、など新たに派生した点について探求していく。 ヒトカゼインキナーゼ1δ(CK1δ)と基質ペプチドの作製方法を確立したため、CK1δのリン酸化活性の圧力依存性について研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画は概ね計画通りに進行したが、試薬に予定以上に予算を使用したため、当初購入予定していた高圧顕微セルの予算が不足した。次年度分の使用額は高額でないため、計画に大きな変更は必要ない。
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