研究課題/領域番号 |
19K06532
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森 貴治 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90402445)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クライオ電顕 / タンパク質 / 立体構造予測 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
近年、クライオ電顕の発展により、様々なタンパク質の近原子解像度の3次元像が得られるようになってきた。対象とするタンパク質が新規であり、電顕密度マップ中で側鎖がはっきりと見えない場合、慎重な構造モデリングが必要となる。本研究では、計算科学に基づく精密な立体構造予測法を確立することを目指し、3つの方法論を開発した。具体的には、① de novo モデリングにおいて発生する局所的な構造エラーを修正するアルゴリズムを開発し、GENESIS に導入した。② de novo モデリングによって予測された立体構造を精密に最適化する方法として、SAUA-FFR 法を開発した。③ overfitting を防ぐために、複数の構造スコアを組み合わせて最良モデルを選ぶ方法を考案した。SAUA-FFR 法では、united-atom (UA) モデルと陰的溶媒モデル、simulated annealing (SA) MD 法を組み合わせ、繰り返しフレキシブル・フィッティング (FFR) を行いながら構造を最適化する。本研究では、de novo モデリング法の1つである MAINMAST により得られた構造に対して SAUA-FFR 法を用いて構造を最適化した。その結果、SAUA-FFR 法は従来の手法と比べて RMSD, MolProbity, RWplus などのスコアが改善され、2次構造をより再現できることがわかった。United-atom モデルは全原子モデルに比べて原子の移動性が高いために、最適化がよく進むと考えられる。開発した3つの方法を用いることにより、中程度の解像度の電顕密度マップからの de novo モデリングの精度が改善された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、クライオ電顕密度マップから精度良くタンパク質の立体構造を予測するための課題 ① 計算精度を上げつつ計算コストを抑えなければらないこと、②大量の候補となる立体構造にランダムにエラーが発生すること、③大量の候補となる構造から最も天然構造に近い構造を選び出さなければならないことに着目し、それぞれに対して方法論を開発した。共同研究先であるパデュー大学の木原グループとのディスカッションを通じて、予期していなかった問題点の発見や新しいアイディアの創出に繋がり、これらを克服することで当初の計画以上に研究を発展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では8つのタンパク質を対象として立体構造予測を行い、開発した方法論の有用性を確認した。8つのうち、4つの系は予測の難易度が比較的低く、他については難易度が高いものを選んだ。前者の系については我々の方法により予測精度の向上が見られたが、後者の系では依然として改善すべき点が見られた。具体的には、初期予測構造が天然構造よりも大きくずれている場合は、MD 計算でも最適な構造を探索することが難しいことが分かった。今後、構造データベースや機械学習、ベイズ理論などを利用するような新しい構造探索法の開発について検討する予定である。
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