クライオ電顕像からタンパク質の立体構造をモデリングする際、分子動力学 (MD) 計算に基づくフレキシブル・フィッティング法が広く用いられる。これは、分子構造が電顕マップにフィットするように MD 計算中にバイアスをかけて構造を最適化する方法である。しかしながら、フレキシブル・フィッティング法ではバイアスの最適な力の定数はあらかじめ分からないため、バイアスをかけすぎると、電顕マップ中の局所低解像度領域やノイズが強い領域において、オーバーフィッティングがしばしば起こってしまう。そこで本研究では、このようなオーバーフィッティングをなるべく軽減するための経験則を見出すことを目的として、高解像から低解像度のマップを持つ様々な系に対してバイアスの力の定数を変えたフレキシブルフィッティング計算を網羅的に行ない、得られた立体構造を詳細に解析した。その結果、すべての系において、バイアスを強くかければかけるほど実験マップとの相関係数は増大したが、低解像度のマップの場合、MolProbity スコアが増大し、αヘリックスやβシートが壊れやすいことがわかった。一方、高解像度のマップの場合は、構造が強いバイアスに対して耐性を持っており、MolProbityスコアは大きく増大せず、二次構造も比較的安定であることがわかった。これらの網羅的な解析により、我々は経験則として、システムサイズやマップの解像度に依存する適切な力の定数の値を割り出すことに成功した。本経験則に基づくことで、より最適な力の定数の探索や、フレキシブル・フィッティングの際の初期値の設定に有用であると考えられる。
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