研究課題/領域番号 |
19K06533
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩崎 わかな 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 専任研究員 (00332289)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リボソーム / 電子顕微鏡 / ウィルス |
研究実績の概要 |
昨年度は、cap構造を持つmRNA翻訳途中の宿主リボソームをHCV IRESが「乗っ取る」過程を捕らえるため、蛍光顕微鏡を用いて1分子観察を行った。既に当研究室の先行研究では、cap付mRNAを翻訳途中に停止させたribosomeを単離した試料にHCV IRESを添加すると、IRESが80Sリボソームに結合することをクライオ電子顕微鏡で明らかにしている。2019年度は、cap付mRNAを翻訳している最中のリボソームをHCV IRESが捕らえることができるか、一分子イメージングにより明らかにすることを試みた。 5’末端にcapを付加したmRNA(HAタグとルシフェラーゼを連続してコード)を用いて、リボソーム・翻訳開始因子・翻訳伸長因子等を加えて試験管内で翻訳を開始させた。これは、ヒト細胞内で、通常のcap依存性翻訳反応が起きている状態をmimicしたものである。この時、固定化用にビオチン付抗HA抗体を入れておく。これにより、HAタグが翻訳されたタイミングで、引き続きルシフェラーゼを翻訳中の80Sリボソームを、ビオチン付抗HA抗体を介してスライドガラス上に固定化した。そこへCys5で蛍光標識したIRESを添加し、ガラス上に固定化されたIRESの輝点数を計測したところ、negative controlに比べて有意に多数であった。これは、蛍光標識したIRESが、ガラス上に固定化されたcap翻訳反応継続中の80Sリボソームに結合していることを示唆する。 IRESが単独の40Sに結合した様子を1分子観察した報告例は既にあるが、本研究により初めて、cap構造を持つmRNAの翻訳途中の80SリボソームにIRESが結合した様子を1分子観察することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では2つの仮説を明らかにするため、それぞれの仮説に対して1分子蛍光観察を計画していた。そのうち1つについて比較的スムーズに検証に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
HCV IRESは3'UTRと協調して翻訳を行うという先行研究があり、他のIRESについての報告と併せると、cap依存性翻訳が並行している中でのIRES依存的な翻訳の分子機構を真に理解するには、従来行われてきたIRES領域のみを用いた機能解析ではなく、より広い領域を用いて機能・構造解析を行う必要があると考えられる。そこでIRESに3'UTRも付加した配列を用い、翻訳開始因子も含めた機能構造について、クライオ電子顕微鏡による解明を目指す。 また、HCV IRESは、ヒトリボソームの40Sサブユニットに結合し続けたまま、解離することなく翻訳サイクルを繰り返すことができるかという点について、電子顕微鏡による構造解析とin vitro翻訳アッセイを組み合わせて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2つの仮説を明らかにするため、それぞれの仮説に対して1分子蛍光観察を計画していた。1分子観察には試行錯誤が必要と考えられたため、使用する物品を多数購入予定であったが、予想よりもスムーズに1つ目の仮説を立証する結果を得ることができた。また、電顕による構造解析および機能解析を先に行う必要が出てきたため、2つ目の仮説の検証として予定していた1分子観察は後に回すことにした。次年度は主に電顕および機能解析のための試料調製に助成金を使わせていただく予定である。
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