従来、翻訳開始因子eIF3は翻訳開始段階にのみ働き、その後はリボソームから離脱すると考えられてきた。しかし、我々は昨年度クライオ電子顕微鏡によって、HCV IRESにより翻訳伸長中のリボソームにeIF3が結合した複合体の立体構造を明らかにした。この新規の複合体構造から、eIF3が翻訳開始だけでない未知の役割を担うことが示唆された。それを明らかにするため、今年度は以下の実験を行った。 まず、in vivoにおいても、HCV IRES下流のコード領域に80Sリボソームと共にeIF3が存在するか調べた。九州大学・松本有樹修准教授、理化学研究所・岩崎信太郎主任研究員にご協力いただき、リボソームプロファイリングとeIF3抗体による免疫沈降を用いて、mRNA上のリボソームとeIF3の分布を調べた。しかし、実験上必要な行程において、(1) これらのRNAを細胞内で過剰発現させるため、コントロールとするcapped mRNAでも典型的なプロファイルとならない、(2) RNaseI 処理する際にIRES-eIF3相互作用が失われやすい、という問題が生じたため、信頼性のある結果を得ることはできなかった。 我々が得た複合体の電顕構造では、eIF3の13個のサブユニットのうち、コア部分の9個のみが見られたが、残りの柔軟な4サブユニットは見えなかった。これらのサブユニットの位置について知見を得るため、理化学研究所・今見考志ユニットリーダーにご協力いただき、質量分析していただいた。その結果、eIF3の残りの柔軟なサブユニットは、40Sと相互作用しており、既知のeIF3構造とはコア部分との相対配置が大きく異なることが示唆された。
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