研究課題/領域番号 |
19K06536
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 一馬 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (60188290)
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研究分担者 |
三岡 哲生 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (60754538)
岸本 拓磨 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (70585158)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脂質非対称性 / フリッパーゼ / ゴルジ体 / 小胞輸送 / 酵母 |
研究実績の概要 |
生体膜の脂質二重層では脂質が非対称に分布しているが、その生理的意義には不明な点が多い。私達は、出芽酵母をモデル系に用いて、脂質非対称性を形成するフリッパーゼ(4型P-type ATPase)の機能に焦点を当てて解析している。最近、Neo1変異の致死性を抑圧する変異として新規のゴルジ膜タンパク質Cfs1を見出している。Cfs1は酵母からヒトまで保存されているが、機能は明らかにされていない。そこで本研究では、Neo1とCfs1が制御するゴルジ体の諸機能を明らかにすることにより、ゴルジ体膜における脂質非対称性の生理機能を解明する。本年度は次の成果を得ている。neo1 cfs1 変異株は正常に増殖するが、neo1 cfs1変異と合成致死になる変異としてerd1変異を得ている。Erd1は膜貫通ドメインを有するが、その局在について検討したところ、主にcis-Golgiに局在していた。neo1 cfs1 erd1条件致死3重変異株(以下3重変異株)を作成し、その表現型について解析を行った。3重変異株では、通常は細胞膜に局在する膜タンパク質がゴルジ体に蓄積すること、すなわち3重変異株はゴルジ体から細胞膜への小胞輸送機構に異常を生じていることが明らかとなった。ゴルジ体からの小胞輸送に重要な役割を果たすphosphatidylinositol-4-phosphate (PI4P)の局在について、PI4PのプローブであるOsh2タンパク質のPHドメインを用いて解析したところ、3重変異株ではPI4Pがゴルジ体に局在していないことが明らかとなった。そこで、PI4P生成酵素であるPik1キナーゼの局在について解析したが、Pik1はゴルジ体に局在していた。従って、3重変異株では、Pik1キナーゼの活性が低下しているか、あるいは基質となるphosphatidylinositol (PI)のゴルジ体における存在量が低下している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではゴルジ体膜の脂質非対称性制御の生理的意義について、酵母の遺伝学的手法を中心に用いて解析する。本研究で用いたNeo1を含めて、フリッパーゼはゴルジ体膜脂質二重層の内腔側層のリン脂質を細胞質側層へ輸送することにより膜脂質非対称性の形成を促進する。Neo1は生育に必須であるが、Cfs1遺伝子の変異によりその致死性は抑圧され、細胞内小胞輸送も正常に起こる。このように neo1 cfs1二重変異株は一見野生株と見分けがつかないが、Neo1とCfs1という二つの膜タンパク質の存在意義を考えると、neo1 cfs1二重変異株には脂質非対称性の制御に何らかの異常が生じている可能性が考えられる。そこでneo1 cfs1変異と合成致死となる変異を検索し、Erd1遺伝子の変異を得た。Neo1がフリッパーゼであることから、neo1 cfs1 erd1 3重変異株(以下3重変異株)ではゴルジ体膜の脂質非対称性異常が関与する新たな細胞機能が破綻しているものと考えられる。そこでまずは3重変異株の小胞輸送について解析を行ったところ、ゴルジ体から細胞膜へと輸送される膜タンパク質が輸送されずにゴルジ体に蓄積されていることが明らかとなった。この小胞輸送異常の欠損について、関連の因子について解析を行ったところ、通常はゴルジ体に局在して小胞輸送に必須な役割を果たすPI4Pが3重変異株ではゴルジ体に存在していないことが明らかになった。このように、neo1 cfs1変異株における脂質非対称性の制御異常がErd1と関連してゴルジ体からの小胞輸送に関与しているという、新しい知見が明らかになりつつあり、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では新たなゴルジ体因子であるErd1が、Neo1フリッパーゼやneo1変異の抑圧変異として見出されたCfs1と機能的に関連していることを明らかにしている。今後はErd1とNeo1/Cfs1との機能的な関係について、そのメカニズムを明らかにしていく必要がある。Erd1は最初、本来は小胞体 (ER)に係留されるタンパク質がゴルジ体を経て細胞外へと分泌されてしまう変異株 (ER retention defective)として単離された。Erd1がcis-ゴルジ体に局在していることから、Erd1はERからゴルジ体へと漏れ出たタンパク質を再度ERへと回収する機構に働いている可能性が考えられる。従って、今後の研究においては、Neo1やCfs1がゴルジ体からERへの逆行輸送に働いている可能性について検討する。一方で最近、Erd1はゴルジ体内腔に蓄積したリン酸 (Pi)を細胞質側へと輸送する輸送体として働いている可能性が提唱されている。Erd1変異株では糖タンパク質の糖鎖修飾にも異常が見出されることが報告されているが、先に述べたERタンパク質の係留異常も含め、これらの異常がゴルジ体におけるリン酸の異常な蓄積により引き起こされている可能性が考えられる。今後はゴルジ体膜における脂質非対称性とゴルジ体におけるリン酸イオンホメオスタシス(恒常性)に注目して解析を続けて行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
大きな額では無いが、56,013円の繰越が生じた。次年度も、研究分担者分も含めて、合成オリゴDNA、一般研究試薬、プラスチック器具等に使用する予定である。また、論文発表を計画しており、その投稿料にも充当する予定である。
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