研究課題/領域番号 |
19K06537
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
笠松 真吾 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80738807)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 活性イオウ分子 / レドックスシグナル / 低温耐性 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
ヒトを含むほとんどの哺乳類は非冬眠性動物であり、低酸素・低温環境に曝露されると細胞や組織は傷害され、最終的に死に至る。一方で、ジリスやハムスターなどの冬眠性動物は、低酸素・低温耐性を持つことが知られている。しかし、その分子生理機構の詳細は不明な点が多く残っている。本研究では、ミトコンドリア内で生成されるイオウ代謝物(活性イオウ分子種)によるミトコンドリアエネルギー代謝機構(イオウ呼吸)の低酸素・低温下における役割を解析し、イオウ呼吸と低酸素・低温耐性および冬眠の連関について解明する。 これまで、活性イオウ分子種は非常に高い反応性を持つため、特異的かつ高感度検出が非常に困難であった。そこで本年度はまず、活性イオウ分子検出用の新規のアルキル化試薬を合成し、高感度検出系を構築した。次に、ヒト胎児腎293(HEK293)細胞および、シリアンハムスター腎臓がん(HaK)細胞を低温に曝露し、細胞内活性イオウ動態への影響を解析した。HEK293細胞は低温曝露後12時間から細胞死が生じる一方で、HaK細胞は低温曝露48時間後でも細胞形態変化は観察されなかった。低温曝露により、HaK細胞内でシステインパースルフィドやグルタチオンパースルフィドの有意な増加が確認された。興味深いことに、低温曝露したマウス個体由来の肝臓組織サンプルでも同様の結果が確認された。ウェスタンブロット解析により、生体内活性イオウ分子生成における主要な酵素であるミトコンドリア局在型システインtRNA合成酵素(CARS2)の発現レベルが低温曝露により有意に増加することが分かった。 これらの結果は、低温曝露により生体内活性イオウ分子生成動態が変化することを示す初めてのデータであり、生体内活性イオウ分子がハムスターの低温耐性機構に関与している可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性イオウ分子をより特異的・高感度に検出することが可能な新規アルキル化試薬の合成し、新規活性イオウ分子定量系の構築に成功した。本検出系を用いて、低温曝露による生体内活性イオウ分子生成動態への影響を世界に先駆けて明らかにした。また、新規アルキル化試薬を用いた未知活性イオウ分子の探索系(イオウメタボローム・プロテオーム解析系)を構築し、複数のマウス組織からの新規活性イオウ分子候補の検出に成功している。 以上のことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
低温曝露に対して脆弱性が認められたHEK293細胞と、低温耐性が確認されたHaK細胞内の活性イオウ代謝関連電遺伝子の発現レベルを解析する。さらに活性イオウ代謝関連遺伝子を過剰発現させたHEK293細胞、または活性イオウ代謝関連遺伝子ノックダウン処理を行ったHaK細胞に低温曝露を行い、その影響を解析する。また、活性イオウ関連遺伝子改変マウスを低温曝露し、その動物組織内における活性イオウ分子種生成動態を解析する。さらに、前述した新規アルキル化試薬によるイオウメタボローム・プロテオーム解析系を用いて、低温曝露により変動する未知活性イオウ分子の探索を行うことで、低温耐性機構における活性イオウ分子の機能の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:本年度は、実験に使用する試薬、消耗品などの物品費が当初の予定よりも少ない額で目的を達成することができたため。 使用計画:動物および細胞を用いた低温曝露による活性イオウ分子種産生への影響の解析実験、低温曝露により変動する活性イオウ分子の探索のためのメタボローム・プロテオーム解析実験に関する試薬、消耗品などの物品費に使用する。また、研究成果を論文にまとめ投稿するための英文校正、論文投稿費用として使用する。
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