本研究は、ヘムがシグナルとして、転写抑制因子Bach2の天然変性領域に直接調節し、細胞応答過程を制御する分子機構の解明を目的とする。転写抑制因子Bach2は、免疫細胞に多く発現しており、B細胞では、成熟B細胞から形質細胞への分化を抑制することが知られている。これまでに申請者は、ヘムがBach2と直接結合して形質細胞分化を促進することを報告した。更にヘムがBach2の天然変性領域の構造状態を変化させることを明らかにしている。本研究課題では、ヘム依存的に相互作用が変化し、かつBach2の機能を調節する可能性を持つ複数の因子(特にリン酸化酵素TBK1)の同定をきっかけに、ヘムシグナルが、天然変性タンパク質の相互作用因子を変化させ、細胞応答過程を調節する分子メカニズムを明らかにすることを目指した。 本年度は、前年度作成した全長Bach2に対する複数の変異体(①ヘム存在化でリン酸化されやすいサイト、②ヘム非存在化でリン酸化されやすいサイト、③ヘムの有無にかかわらずリン酸化されるサイト)について免疫沈降法を行い、リン酸化の有無でBach2の相互作用因子が変化する可能性を検討した。その結果、Bach2のTBK1によるリン酸の有無により、Bach2のユビキチン化分解を担うユビキチンE3リガーゼとの相互作用に影響することが明らかとなった。従って、Bach2天然変性領域の構造はいくつかの構造状態をとり、それぞれがコリプレッサー、リン酸化酵素、ユビキチンE3リガーゼとの結合にかかわること、この構造とタンパク質相互作用のスイッチイングをヘムとリン酸化が連携して制御することが示された。このヘム-リン酸化リレーによる天然変性タンパク質制御モデルについては現在論文リバイス中である。
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