研究課題/領域番号 |
19K06539
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
飯田 秀利 東京学芸大学, 教育学部, 名誉教授 (70124435)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シグナルペプチド / 膜輸送機構 / Nグルコシレーション / 小胞体 / 翻訳開始 / 翻訳開始コドン / 出芽酵母 / カルシウムチャネル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、出芽酵母のカルシウムチャネルの制御サブユニットMid1を用いて、翻訳開始コドン選択機構と膜輸送機構を研究することである。Mid1タンパク質は全長548アミノ酸残基からなり、そのN末端に小胞体(ER)内腔に入るためのシグナル配列をもつ。教科書的には、シグナルペプチドはER内腔に入るために必要だとされるが、先の我々の研究により、Mid1タンパク質はそのSPを欠失してもER内腔に入ることができることが発見された(Iida et al, JBC 2017)。 この発見は、Mid1タンパク質はN末端以外にも第2のシグナルペプチドをもっていることを示唆する。その示唆を検証するために、Mid1タンパク質のC末端領域に着目し、その領域にシグナルペプチドの役割を担う領域が存在するかどうかを、その領域にER内N-グリコシレーションの有無を知ることができるレポータータンパク質を融合させて、N-グリコシレーションを受けるか否かで調べた。その結果、C末端領域には確かに第2のシグナルペプチドが存在することを明らかにした。本年度は特に、その第2のシグナルペプチドの詳細な同定を行なった。 この同定を基盤として、どのような生育環境下でC末端に存在する第2のシグナルペプチドがはたらくのかを調べる。現在その環境条件を検討中であるが、この問いに対する解答が得られれば、真核細胞におけるタンパク質の膜輸送機構に新たな制御機構を加えることになり、極めて重要な研究となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の欄にも書いたように、Mid1タンパク質にはN末端のシグナルペプチの他に第2のシグナルペプチドがC末端近傍に存在する。この発見は、本研究により、Mid1につないだレポータータンパク質がER内腔でNグルコシレーションを受けるかどうかを調べることによりもたらされたものである。研究の進捗に伴い、我々はレポータータンパク質の種類の違いにより第2のシグナルペプチドの位置が微妙に異なることを見出した。このことは、第2のシグナルペプチドの利用は、分子内環境に影響を受けることを示唆するものであり、このシグナルペプチド選択と近傍の一次構造、二次構造、および三次構造との関係を明らかにしなければならないという新たな興味深い課題が浮き彫りにされた。 この知見を基に、様々な真菌類のMid1ファミリータンパク質で高度に保存されているC末端近傍の6アミノ酸残基よりなる配列が翻訳後膜輸送とNグリコシル化を促進することを見出した。更に、Nグリコシル化される複数のタンパク質の断片をレポーターとして用いた解析の結果、上記の6アミノ酸残基よりなる配列のみではシグナルとして不十分であり、6アミノ酸残基にそのN末端側の29アミノ酸残基を加えた配列が翻訳後膜輸送とNグリコシル化を促進することを発見した。また、N末端Sシグナルペプチドを欠失させたMid1のC末端領域を部分的に欠失させた変異体のNグリコシル化の解析の結果においても、6アミノ酸残基配列とそのN末端側29アミノ酸残基配列がともに翻訳後膜輸送とNグリコシル化に必要であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
どのような状況下でMid1タンパク質のC末端の第2シグナルペプチドがはたらくのかを調べる目的で、酵母細胞をさまざまな在用条件下で培養し、N末端シグナルペプチドが使われない条件を探索する。この探索の基本的なバックグランドは、もし末端シグナルペプチドが使われないならば、Mid1タンパク質のサイズが小さくなるであろうという予想に基づく。
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