研究実績の概要 |
本研究の目的は、出芽酵母のカルシウムチャネルの制御サブユニットMid1を用いて、翻訳開始コドン選択機構と膜輸送機構を研究することである。Mid1タンパク質は全長548アミノ酸残基からなり、そのN末端に小胞体(ER)内腔に入るためのシグナル配列をもつ。教科書的には、N末端シグナルペプチド(N-SP)はER内腔に入るために必要だとされるが、我々は先の研究により、Mid1タンパク質はそのN-SPを欠失してもER内腔に入ることができることを発見した(Iida et al, JBC 2017)。 この発見は、Mid1タンパク質はN末端以外にも第2のシグナルペプチドをもっていることを示唆する。その示唆を検証するために、Mid1タンパク質のC末端領域に着目し、その領域にシグナルペプチドの役割を担う領域が存在するかどうかを調べた。具体的には、小胞体でのNグリコシレーションの基質となるペプチド断片にウェスタンブロッティングで検出するための抗原ペプチドを融合させたレポーター分子を、Mid1タンパク質のC末端領域を結合させ、Nグリコシレーションが起きるかどうかを調べた。その結果、C末端領域には確かに第2のシグナルペプチド(C-SP)が存在することを明らかにした。 この解明は、次の2つの疑問を想起させる。つまり、(1) C-SPのアミノ酸配列はどこからどこまでか、(2) どのような状況下でC-SPがはたらくのであろうか、ということである。現在、この2つの課題を解決すべく研究を重ねているが、(1)の方については最終的な解明に近づいている状況である。(2)については未だ初期段階であり、今後の更なる研究が必要な状況である。この2つの課題を解決できれば、真核細胞におけるタンパク質の膜輸送機構に新たな視点を加えることになり、極めて重要である。
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