研究課題/領域番号 |
19K06540
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
湊元 幹太 三重大学, 工学研究科, 教授 (80362359)
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研究分担者 |
瀧口 金吾 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (20262842)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人工細胞 / リポソーム / GUV / 細胞骨格 / 細胞接着 / バキュロウイルス / 脂質二分子膜 / マイクロコンパートメント |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、細胞接着分子や細胞骨格等を組換え技術で再構成した巨大リポソーム(Giant Unilamellar Vesicles; GUVs)ベースの人工細胞モデルが、細胞-細胞間の結合を模倣することでネットワーク形成(多細胞化)し、それにより秩序構造と共役挙動が発現する組織体となるのか、ということに取り組んでいる。 昨年度より課題となっていた、私たちが開発した逆相遠心法により作製した大量の細胞サイズ脂質2分子膜ベシクル(GUVs)上へのバキュロウイルス出芽粒子(BV)膜融合による組換え膜タンパク質再構成に、今年度も継続して取り組んで、脂質組成と溶媒の工夫により成功した。現在、多細胞システムのモデル化につながる、GUV接着機能を再構成した組換え細胞接着分子タンパク質を介する特異的発現について、予備的結果を得ており現在検討を進めている。 並行して、細胞質内のモデルとしてミクロコンパートメントへ細胞骨格(アクチン)を内封したシンプルなシステムの構築を、水性二相分離系による水性ミクロ相分離を用いて検討した。アクチン分子が高い効率でミクロ液滴に取り込まれ、かつ脂質分子により取り囲まれたコンパートメント構造が自発形成することを確認した。 一方、細胞接着現象の評価において有用となるミクロ又はナノビーズ上へ被覆された球状支持膜へのバキュロウイルス出芽粒子との膜融合による組換え膜タンパク質再構成についても、取り組んでおり、今年度は、球状支持膜上の膜タンパク質の検出の特異性をより明瞭に示せるようになったほか、支持膜の流動性が出芽粒子の膜融合により大きく増加する現象が明らかとなった。 以上のように、今年度は、本研究の課題の中心である、細胞接着を介した結合により多細胞モデルを作る目的に必要な、大量GUVsへの接着タンパク質の導入を実現し、目的遂行に資する周辺の課題も解決できてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)私たちで開発した逆相遠心法(Reverse-Phase/Centrifugation Method)では細胞サイズの脂質2分子膜ベシクル(GUVs)を容易に高密度に密集させられるほどに作製でき、比較的広いリン脂質組成の選択と、生理的緩衝液を含む色々な組成の水溶液中での調製が可能となっている。そして今年度は、50%~100%の割合で、この組換え膜タンパク質提示バキュロウイルス出芽粒子(BV)と膜融合させることができるGUVの脂質組成と溶媒を見出した。前記の方法・条件を利用し、組換え膜タンパク質(細胞接着分子)を導入したGUVの集団で、そのタンパク質を介したGUV-GUV間結合が特異的に形成している予備試験データを得ることができた。 2)細胞内や核内(細胞質や核質)のモデルとなるよう、細胞骨格(アクチン)を内封することを、本研究課題では考えている。水溶性高分子よる水性二相分離系が示す水性ミクロ相分離現象において、Fアクチン分子が高い効率でミクロ液滴に取り込まれ、かつ脂質分子により取り囲まれたコンパートメント構造が自発形成することを確認した。この結果も、並行して、本研究目的の遂行に活かしていくことが可能である。 3)今年度も引き続き、ビーズに支持された球状人工細胞膜への膜タンパク質再構成に取り組んでいる。GUVの利用を補完することも可能な方法として期待できる。特に、膜流動性の評価や膜タンパク質挿入の条件検討を進め、BV膜融合が、支持膜の流動性を保つのに必要であることが見出された。同時に、BVによるタンパク質挿入にはpHの低下(弱酸性条件へ曝すこと)が必要であったが、その条件を緩和できる可能性を見出した。 1)~3)より、昨年度進捗があまりなかった、GUVの集積の制御についての条件検討が進んできたことから(2)と判断し、R3年度、これをさらに推し進めたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度進捗が見られた、1)細胞サイズリン脂質二分子膜ベシクル(Giant Unilamellar Vesicles; GUVs)の細胞接着タンパク質による集合化、ならびに、2)細胞骨格再構成技術の改良、をさらに進めるとともに、並行して、3)組換えバキュロウイルスによる膜タンパク質再構成技術による結合機能を特徴づけるタンパク質の導入に取り組んでいき、本課題が目的とするGUVベースの人工細胞からなる、細胞結合ネットワークモデルの形成(多細胞化)に取り組んで行く。今年度までに、広い脂質条件と溶液条件で既に大量調製が可能となり、1)や3)に有効である特徴的な脂質組成や支持環境を見出してきている。これらを活かして、今後、タンパク質性、非タンパク質性、の両方を用いて、GUVの集積、GUV接着界面またはその内外水相が、導入タンパク質(受容体、骨格等)等によって、自発的な秩序構造への発展とそれによる機能発現が現れるか、研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度「現在までの進捗状況」として若干の進展が遅れていることを報告したが、当該年度は概ね順調である。但し、前年度の繰越に伴い、当該年度にも繰越が発生した。しかし、研究期間全体を通しての進捗には問題が無く、次年度以降、細胞結合ネットワークモデルを構築するうえで重要な人工細胞GUVの集積の制御研究において必要となる物品費等に充当していく。
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