研究課題/領域番号 |
19K06541
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
辻田 和也 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 講師 (10457054)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膜張力 |
研究実績の概要 |
我々の先行研究により、正常上皮細胞の細胞膜張力は、運動能の高い転移性がん細胞と比較して有意に高いことを明らかにしている。本研究では、我々が膜張力センサーとして同定したBARタンパク質に着目し、光ピンセットを用いて、上皮細胞の細胞膜張力が恒常的に高く維持される分子機構を解明し、細胞膜張力の恒常性維持機構という上皮細胞のintegrityを保つ新しい概念を提示する。さらに、この分子機構の破綻が上皮細胞の運動・浸潤能の獲得の原因となることを明らかにし、細胞膜張力をターゲットとした従来にないがん治療法の開発に向けた基盤の提案を目指す。 本年度は、上皮細胞の張力を制御するBARタンパク質の同定を試みた。RHO GAP及びRHO GEFドメインを持つBARタンパク質に焦点を絞り、RNAi法によりノックダウンを行い、光ピンセットを用いて上皮細胞(MCF10A)の細胞膜張力の測定を行った結果、張力恒常性の維持に必要なBAR タンパク質Xを同定した。さらに、このXのノックダウンにより、MCF10A細胞は間葉系がん細胞様の細長い運動性形態に変化し、in vitroにおいて浸潤能を獲得することが分かった。また、BARタンパク質Xを恒常的に発現するMCF10A細胞、および転移性がん細胞(MDA-MB-231)株を樹立した。これらの細胞株を用いて、タイムラプスイメージングを行い、Xの細胞膜張力の変化に応じた挙動を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞膜張力を制御するBARタンパク質の同定に成功し、実際にこのたんぱく質のノックダウンにより、上皮細胞に運動・浸潤能が著しく亢進することを見出した。これらの知見は、BARタンパク質による張力恒常性が上皮細胞のintegrityを保つ新たな仕組みであることを支持しており、今後の研究発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、BARタンパク質Xが張力恒常性を維持する分子機構を、物理学・生化学・細胞生物学手法を組み合わせて明らかにしていく。また、BARタンパク質Xが、転移抑制因子として働くかどうか、がん細胞を用いて検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
差引額は10,018円であり、ほぼ予定通りである。
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